秋の味覚として人気の高いきのこだが、特に今年は空前の“えのきたけ”ブーム。生産量全国1位を誇る長野県中野市では、例年にはない現象が起こっているという。
「地元産のフルーツやきのこを楽しむ“秋の味覚フェア”を開催したところ、例年は旬のフルーツを求めて訪れるお客様が多いのですが、今年はえのきが例年の5倍売れたんです」(JA中野市販売部・出川秀隆さん)
うれしい悲鳴に聞こえるが、実は先月まで、えのきの卸売価格は低迷していた。例年この時期は200g当たり50~60円で推移するが、今年は野菜が豊作で値崩れし、30円台にまで落ち込んでいたのだという。
ところが今月に入り、NHKの情報番組『あさイチ』(10月2日放送)で、えのきのダイエット効果が紹介されるやいなや状況は一変。
「その後1週間で、卸値は一気に2倍近くはねあがり、例年並みの55円程までに回復しました。他の野菜が低価格で推移しているなかで、えのきが注目を集めているのです」(前出・出川さん)
今、えのきがこれほどまでに注目されているのは、最近の研究で新成分が発見されたから。まいたけでも、しめじでもない、えのきに特有の“新効果”とは?
えのきに限らず、きのこ類にはそもそも“キノコキトサン”という優れたダイエット効果を持つ物質が含まれている。きのこ研究の第一人者である東京農業大学教授の江口文陽さんが次のように説明する。
「きのこが持つダイエット効果は“排泄力”によるものです。キノコキトサンは腸内で、食事などで取った余分な脂肪の周りに薄い膜を張ります。この膜が、脂肪が腸内で吸収されるのを阻害します。また、腸を活発に動かす整腸作用があり、便と一緒に脂肪を排泄してくれます。その結果としてダイエット効果が期待できるのですが、キノコキトサンの含有量は、実はきのこ類の中でえのきがナンバーワンなのです」
また、えのきにはキャベツの2倍以上の食物繊維が含まれているなど、これまでは腸内環境を整えてくれる健康食材として注目されてきた。
ところが近年、えのきに整腸作用以外の側面があることが研究によりわかってきたのだ。今回発見された“エノキタケリノール酸”の名付け親である日本薬科大学教授の渡邉泰雄さんは次のように説明する。
「えのきに含まれるキノコキトサンの一部に“エノキタケリノール酸”という成分があり、内臓脂肪を減少させる効果のあることがわかったのです」
渡邉さんによれば、エノキタケリノール酸には脂質代謝を活性化させる効果があるという。
「私たちの体内では、運動をした際にホルモンの一種であるアドレナリンが分泌されます。これが脂肪細胞にあるアドレナリン受容体と結合し、最終的には脂肪分解酵素であるリパーゼを活性化させることで脂肪を分解しています。
最近の研究では、エノキタケリノール酸にアドレナリン受容体を活性化させ、アドレナリンが受容体に結合しやすくする働きがあることがわかったのです。つまり、エノキタケリノール酸を摂取することで、運動しているのと同じような効果が得られるというわけです」
それでは、えのきの脂肪分解作用には、どれほどの効果があるのだろうか。
「私たちの研究グループが行った実験では、2か月間エノキタケリノール酸含有の茶類を服用することで、内臓脂肪が約22%減少したことが確認されました。特に、BMI(ボディマス指数)が26以上と高めの人や、ウエストが95cm以上あるようなメタボ予備軍には効果的です」(渡邉さん)
また、NHKの『あさイチ』では、細かく切った干しえのきをお湯にひたした“えのき茶”を毎日飲んだところ、内臓脂肪が2週間で26%も減少した女性が紹介されていた。
※女性セブン2012年11月1日号