日本政府の尖閣諸島国有化を受け、中国各地では抗議行動が相次いだ。日本企業を苛む「チャイナリスク」について、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
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日本政府の尖閣諸島国有化に対し、中国では未だに日本製品ボイコットや日本企業はずしなどの反日行動が続いている。
今回、日本人は「チャイナリスク」が、かつてなかったほどリアルであることを痛感した。とくに日本企業は、中国が生産地としても市場としても観光業においても、淡々と事業が展開できる普通の国ではなく、政府の胸三寸で甚大なダメージを受ける国だということを改めて思い知った。
たとえば、北京市では出版当局の指示によって大手書店の売り場から日本関係の書籍が姿を消したというニュースが話題になった。その後、村上春樹氏が事態を憂慮するエッセーを発表したこともあって、日本関係の書籍は再び店頭に並ぶようになった。
しかし、日本ではほとんど報じられていないが、現実はもっとひどかった。私が聞いたところでは、中国国内の病院には「日本の独資(100%日本資本)の医薬品は全部撤去、合弁企業の場合は半分まで撤去せよ」という具体的な通達が出ていたのだ。
日本の製薬会社は中国の病院を1軒ずつコツコツと回り、何十年もかけて薬を採用してもらってきた。その苦労が、政府の通達1本で一瞬にして、すべて水泡に帰したのである。いったん棚から撤去されると、政府が再び許可しても、完全に元に戻すのは難しい。このすさまじい徹底ぶりは、専横国家、独裁国家にしかできない。
それを主導していたのが、中国共産党の次期総書記就任が確実視される習近平国家副主席だった。彼が2週間もの間こもっていたのは、尖閣問題の“プロジェクトマネージャー”として、報復策のアイデアを練るためで、今回の対処は総書記にふさわしいかどうかを見定める“習近平の肝試し”だったといわれている。ヒラリー・クリントン国務長官との会談をキャンセルしたのもアメリカに介入されることを嫌ったからだという。
※週刊ポスト2012年11月2日号