来年4月より、60歳定年を迎えたサラリーマンでも引き続き会社と雇用契約を結べるようになる。これは「高年齢者雇用安定法」が改正されたためで、2025年には原則として希望すれば全員が65歳まで働くことが可能になる。
しかし、雇用延長が義務化されると、企業にとっては対象者を選別することはできず、頭の痛い問題が山積することになる。法改正を見越して継続雇用制度を導入しているという大手電機メーカーの人事担当者はいう。
「会社の人件費負担は膨れ上がりますし、過去の経験や地位にしがみついている人が残ってしまうと、若年層への世代交代が進まず、せっかく育ちかけた新しい事業分野の芽も摘みかねません。働く気力や体力がすっかり落ちているのに、『定年後に家にいると奥さんに嫌がられるから……』という理由だけで継続希望を申し出る人もいますしね」
そんな弊害を恐れてか、現時点で雇用延長を実施している企業は、決して多くない。6月に厚労省が従業員31人以上の約14万社を調べた結果では、「希望すれば65歳まで働くことができる」と答えた企業は48.8%と半数を下回り、改正法の施行を前にしても“及び腰”な状況が見て取れる。
実際に雇用延長に踏み切る企業はどのような制度を採用しているのだろうか。
■大和ハウス工業
希望者全員を65歳まで嘱託社員として再雇用しているが、2013年4月から定年延長して正社員にする。給与水準は60歳時の6割程度で、嘱託社員の4~5割より引き上げる。
■サントリー
2001年より再雇用制度を導入していたが、2013年4月より正社員のまま65歳まで定年延長する。給与は60歳時の6~7割程度になる見込みで、職位により3段階に分ける。
■NTTグループ
50歳以上の社員を地域子会社に転籍させる制度を廃止。グループ8社で65歳までの再雇用制度を拡充させ、技能に応じて年収300万~400万円に報酬を引き上げる計画。
■トヨタ自動車
工場の生産部門などで60歳以上の労働時間を半分にする「ハーフタイム勤務」制度を検討。作業時間を落とした生産ラインも導入する方針。
■アサヒビール
2006年から再雇用制度をスタートさせ、入社3年目までの社員の相談に乗る「キャリアアドバイザー制度」などを持つ。60歳以上の社員が3年任期で全国の営業所や工場を訪問。
これら各社の雇用制度の特徴について、人事問題に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
「大和ハウスやサントリーのように正社員のまま定年延長をすると、『就業規則の不利益変更』に該当して労使間の合意がなければ給与水準を下げにくい。それよりも、社員の家庭環境や希望の勤務形態、職能などを考慮した有期契約の再雇用方式にしたほうが会社にとっても幸せです。中には『私は子供にお金がかからないし、企業年金ももらえるから、週2日勤務で10万円ぐらいの小遣いになれば十分』という人もいるでしょうしね」
では、60歳以降も現役時代と引けを取らない給与を貰い、フルタイムでバリバリと働ける人材とはどんなコースを歩んできた人たちか。
「専門スキルの高い技術職は定年を迎えても会社から重宝がられます。また、若手育成も事務系より技術系で指導できる人材が引き続き求められます。一方、意外にも評価が低いのが営業職。いまの営業は昔のような接待型は通用せず、ITを駆使した問題解決型の営業スタイルが主流になっています。いくら部下をたくさん抱えたベテラン営業マンでも、定年前に一度、新しい営業手法を学び直す必要があります」(溝上氏)
将来的に年金支給開始が65歳からさらに延長されれば、法定定年年齢そのものが引き上げられる可能性もあり、いずれ企業は年功序列も含めた賃金制度の抜本的改革に迫られるだろう。であるならば、社員はなおさら肩書きにとらわれない不断の努力が大事になる。