【書評】『本人伝説』南伸坊著/文藝春秋/1050円(税込)
顎に指を添えた哲学者風のスティーブ・ジョブズ、極限まで口角を吊り上げて微笑む松田聖子、トレードマークの帽子と胸の谷間を見せつけるヨーコ・オノ。虚ろな視線の鳩山由紀夫に弾ける鳩山幸。これらはどれも南伸坊が扮した「本人術」の名作だ。
本書は、著者が73名の有名人の「顔」に扮し、本人になりすました語りを添えた写真エッセイ集。本人術とは、著者いわく〈いわば顔をキャンバスにした似顔絵のようなもの〉。外見を似せることで考え方まで似てきて、本人の疑似体験ができるという「本人術理論」の集大成である。
登場する有名人に対する著者の捉え方が、似せ方やポーズの取り方、もしくは似ていなさ加減としてにじみ出し、旬の人々の“濃い部分”がこれでもかとクローズアップされる。〈私って何様かしら? おバカ様?〉(蓮舫)、〈要点は5つです。メモして下さい〉(勝間和代)といった語りも秀逸だ。
似てる、似てると爆笑し、これは似てないのに面白いと感心しながらページを繰り、読後は質のいい世評を読んだ気分になる。
※SAPIO2012年11月号