尖閣諸島を日本政府が国有化したことに対する中国の反発はいまだ収まらない。反日デモこそ見られなくなったが、漁業監視船や、艦艇を周辺に派遣するなど示威行動を続けている。そんな中、香港で尖閣諸島の領有を主張する団体の黒幕とされる人物にジャーナリストの相馬勝氏がインタビュー。民間の尖閣諸島領有運動の内幕を語った。
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香港で、尖閣諸島は中国領であると主張する民間団体「香港保釣行動委員会」の顧問的存在である劉夢熊氏に単独インタビューした。
劉氏は実業家で、現在は香港の石油会社副社長などを務め、220億香港ドル(2640億円)もの資産をもつ。ビジネスの傍ら、政治にも関心を持ち、中国の統一戦線機関である中国人民政治協商会議(政協)の委員も務めている。
劉氏は1996年7月に日本の団体が尖閣諸島に灯台を建設し、日本領であると強く主張したことに反発し、尖閣問題に関心を持つようになり、同年9月に貨物船「保釣号」に乗り込み尖閣上陸を目指したこともあった。その際は、リーダーが泳いで尖閣諸島の上陸しようとして、海に飛び込んだ際、腰に巻いていたロープを船内の柵に絡ませて、宙づりとなり溺死する事故が発生したことで、上陸は中止になったという。
劉氏はその後も運動を続け、香港保釣行動委員会を財政的にバックアップし、これまで400万香港ドルを寄付するなど、運動を支援している。8月に同委員会の活動家が尖閣諸島に上陸した際は100万香港ドルを新たに寄付したという。
ただ、劉氏によると、このときの上陸は「中国政府が黙認した結果」であるとして、通常の運動自体は北京の中国共産党政権の厳しい監督・管理下にあることを明らかにした。
劉氏によれば尖閣上陸計画や反日運動をしようとする場合、協議すべき政府機関が3つあるという。外務省、公安省のほか、対外的スパイ活動を取り締まる諜報機関的存在の国家安全省だ。中国側から見れば領土問題が絡むために、「軍事的な対応も必要で、ときには中国人民解放軍とも話し合うこともある」と劉氏は明かす。尖閣問題で、諜報機関と軍の2部門が直接的に関わっていることが明らかになるのは初めてだ。
このほか、中国政府の直轄組織である香港マカオ弁公室と、香港における中国政府機関である「中央人民政府駐香港特別行政府聯絡弁公室(以下、聯絡弁公室)」、さらに広東省党委員会へも協議が必要となる。
このなかで、最も強制力を持つのが聯絡弁公室で、次期最高指導者とされる習近平・国家副主席に直結している。聯絡弁公室は香港の最高指導者である行政長官もオフィスに呼びつけて、中央政府の指示を伝えるとほどだという。
劉氏は「尖閣問題は極めて敏感な問題であり、北京五輪が開催された2008年には『運動は控えるように』と指示が出されたほどで、尖閣問題に関する運動は極度に管理されている」と明らかにした。
民間の運動といいながら、反日デモを含め党中央の意向のままにコントロールされている実態は理解しておく必要があるのではないか。