脱原発の流れを受け、新たなエネルギー源のひとつと目されている太陽光発電。特に7月に再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)が施行されたことにより、発電能力1MW(メガワット)=1000kW(キロワット)を超える「メガソーラー」と呼ばれる大規模太陽光発電施設の建設がラッシュを迎えている。
2011年5月、孫正義氏率いるソフトバンクが全国11か所でメガソーラーを稼働させる計画をぶち上げたのは記憶に新しいが、その後、破竹の勢いで参入企業が増え、名乗りを上げた顔ぶれを見ると、エネルギー関連企業とは縁遠い業種も目立つ(以下)。
■京セラ/ローソン/IHI/ヤマダ電機/イオン/日揮/富士工業(釣り具)/日本IBM/養命酒製造/三井造船/三井不動産/ハウステンボス(HTB・リゾート施設)/日清紡/MrMax(ショッピングセンター)/東武鉄道/近畿日本鉄道/森トラスト/丸紅/三菱商事/JAグループ……
まさに異業種も入り乱れての“メガソーラーバブル”真っただ中といえる。矢野経済研究所の試算では、太陽光市場は2020年度に1兆7250億円規模にまで膨らみ、うち公共・産業用は2010年度の5.7倍となる約8600億円に達すると見られている。
なぜ、ここまで脚光を浴びるのか。エネルギー産業に詳しい一橋大学大学院商学研究科教授の橘川武郎氏に聞いた。
「メガソーラー事業は太陽光を受けやすい広大な敷地と莫大な建設コストがかかるために二の足を踏む企業が多かったのですが、FITの買取価格が1kWあたり42円と従来予想よりも大幅に高かったために、『確実に利益に結び付く』と一気に参入したのです。価格は変動するとはいえ、少なくとも3年間は今の“プレミア価格”を継続する方針ですしね」
ローソンやヤマダ電機など店舗を活用して発電すれば、電力需要のピーク時は売電だけでなく、自前の施設でも電気を賄うことができるメリットは大きい。
だが、いくらメガソーラーといっても、売電で原発1基分を賄うには程遠い。そもそも、ソフトバンクが各地で計画する合計20万kWの発電能力も、100万kWの出力を持つ原発1基分のわずか5分の1に過ぎない。しかも、前出の橘川氏によると、平均の稼働率は原発が70%なのに対し、太陽光は12%しかないため、さらに発電量は減るという。
もちろん、参入企業が増えれば国全体の発電量は増えていくはずだが、かえって新しい産業の育成にはつながらず、諸刃の剣となるシナリオもある。
「市場拡大によって設備や在庫が過剰になって投資コスト自体が安くなる可能性があります。そうなると、買取価格が高いのはおかしいという議論になって、普及の妨げになる可能性があります。現状では、買取価格の増加分は電気代に上乗せされ、一般家庭など電気利用者が負担する仕組みですからね」(橘川氏)
では、このまま太陽光バブルは呆気なく弾けてしまうのか。
「普及のカギは、いかに既存の一軒家の屋根の上に太陽光パネルを載せられるかにかかっています。売電をするには送電線を敷かなければならないため、送電線のない広大な田んぼで1から投資するより、戸建てを狙ったほうが効率的なんです。ただ、いまは個人宅の屋根に乗せると電力は余剰買い取りにしかなりません。そこで、個人が発電事業者に“屋根貸し”をすれば全量買い取りにできる。この動きが広まらない限り、太陽光ビジネスは続かないでしょうね」(橘川氏)