国際情報

オバマの体たらくでイスラエルが行動する可能性と落合信彦氏

 中東・北アフリカのイスラム圏で反米デモ、暴動が止まらない。この動きは他の地域に波及する可能性があるとジャーナリストの落合信彦氏は指摘する。以下、落合氏の解説だ。

 * * *
 まず、反米暴動の背景を読み解く必要がある。

 直接の引き金となったのは、イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱した映画『イノセンス・オブ・ムスリムズ』だった。映画については当初、イスラエルのユダヤ人が製作・監督を務めたという情報が流れた。イスラム教を侮辱する内容だから、「いかにもイスラエルやユダヤ人がやりそうなこと」と考えるかもしれないが、そう単純ではない。

 言葉は悪いが、インテリジェンスの世界は「何でもあり」だ。自国の利益のみが正義であり、道徳的な価値観は関係ない。

 例えば、今回のような映画を「中国人が作った」という情報を流し、実際そうであるような痕跡を残せば、イスラム圏では一斉に反中国暴動の連鎖が起きるだろう。パキスタンに触手を伸ばし、イスラム圏にまで影響力拡大を目論む中国の力を削ぎたい国が、そうした工作を行なう可能性は十分にある。

 今回のリビア領事館襲撃はアルカイダの一派によるものであることが確定的だ。アメリカでは映画の予告編動画をYouTubeにアップロードしたとされるエジプト系アメリカ人が当局に連行されたが、一連の流れを考えればアメリカへの憎悪を掻き立てたいと考えたイスラム原理主義者によって映画が作られた可能性すら排除できない。リビアで領事館が襲われたのは、あの米同時多発テロと同じ9.11だった。

 残念ながらオバマにはそこまで深く考える能力はない。背景を理解しようとせず、表面の事象にあたふたと対症療法を施すだけであった。

 オバマは昨年の「アラブの春」の際も何もしなかった。アメリカは批判を怖れて各国の政変に影響力を及ぼすことを放棄したのだ。その結果、春は来ずにイスラム原理主義が台頭する「アラブの嵐」が起こり、これからは冬がやってくる。

 それはさらなる混乱の引き金にすらなる。オバマの体たらくに業を煮やしたイスラエルが行動を起こす可能性が高まっているからだ。

 イスラエルは地続きでイスラム教国家に囲まれる。国を守る意識の高さはアメリカや日本の比ではない。周囲の国々で原理主義者の力が高まるのをアメリカが見過ごすのであれば、イスラエルにとって国家存亡の危機だ。さしあたって最大の脅威は核開発を進めるイランであり、アメリカの制止を振り切ってイラン攻撃に踏み切る「Xデー」はそう遠くない。

 9月下旬、イスラエル首相のネタニヤフは国連総会で訪米するにあたってオバマに首脳会談を求めたが、「スケジュールの調整がつかない」と断わられた。これは「イランを攻撃するなら単独でやれ」というシグナルとして受け止められたことだろう。

 実際、イスラエルは単独でイランの核施設を叩くだけの戦力を有す。

 空爆にはアメリカの空中給油機が必要と言われるが、イスラエルは既にボーイング機を改造した自前の給油機を用意し、核弾頭付きのミサイルを搭載できる潜水艦を配備する。また地対地のジェリコ・ミサイル2の射程は2000~5000kmある。

 加えてイスラエルにはモサドという世界最強のインテリジェンス機関がある。1981年にイスラエルがイラクの原子炉を空爆した際には、諜報員が正確な情報を本国にあげていたため、すべての爆弾がターゲットに命中。イスラエルのF-15とF-16は無傷で帰還した。

 危機意識を持って「ケンカ」ができる国家は常に戦争の準備をしているし、インテリジェンス機関はそのために欠かせない。

 イスラエル元首相のアリエル・シャロンはかつて私のインタビューに「アメリカは友好国だが同盟国ではない」と語ったことがある。さらに、

「アメリカと同盟国となり一緒に戦えば、それによって制約が生まれて我が軍が敗れるかもしれないからだ」

 と言い切った。自国の戦力とインテリジェンスへの自信を示す言葉だった。「有事にはアメリカが守ってくれる」と思考停止する日本とは天と地ほど違う。

※SAPIO2012年11月号

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン