例えば打者であれば、3割の成功(=安打)で賞賛を受ける。しかし、同じグラウンドに立っていながら、10割成功して当たり前、一度の失敗も許されないポジションがある。それが審判員だ。試合では誰もが姿を目にしていながら、その“勤務実態”はほとんど知られていない。実は、誰もが選手に負けないプロ意識を持ち、厳しい環境の中で戦っていた。
各球団で戦力外通告がなされる秋。首筋が寒くなるのは、成績を残せなかった選手ばかりではない。彼らのプレーを裁く審判員もまた、契約更改の時期を迎えている。プロ野球の審判員は選手と同じ個人事業主である。
彼らの職分は、日本野球機構(NPB)との1年契約で確保されており、シーズンのジャッジの内容が査定され、10月末までに契約更新通知がなければ、職を失うことになる。
「審判なんて、3時間試合を見てジャッジしていればそれでいい」……そう考える向きもあろう。しかしながら現実はまったく違う。彼らは選手並みか、それ以上の厳しい世界で戦っているのだ。
2012年開幕時で、NPBに所属する審判員は合計62人。20代前半で採用されてから、5年ほど二軍の試合で勉強。その後一軍担当へ昇格のチャンスが与えられ、結果を出せば一軍に定着できる。
選手と同じく、一軍と二軍の差は大きい。特に顕著なのは給与だ。規定により最低年俸が決まっており、二軍は345万円、一軍では750万円(ただし一軍の最低年俸が適用されるには一軍での累計500試合出場が条件)となる。
基本年俸は12か月分割で支払われるが、この他に1試合当たりの「出場手当」が加算される。一軍公式戦の球審で3万4000円、塁審が2万4000円、控えで7000円だが、二軍になると大きく下がり、一律で2000円。ちなみに雨天中止や、試合途中でノーゲームになると手当は支払われない。
選手に合わせて行動するので遠征もあり、交通費・宿泊費などは実費で支給。これに審判用のプロテクターなど用具費が加算される。計算上では、一軍で年間100試合以上をこなすベテラン審判になると、年収は1000万円を超えることもあるが、「収入の約3割は必要経費。それに賞与や退職金がなく、定年が早いために、生涯収入は同世代の平均的なサラリーマンに比べて少ないのが実情です」(スポーツジャーナリスト)
※週刊ポスト2012年11月2日号