「この数週間、高校の寮から実家へ帰ってくる度、家族会議を開いていました。ところがいざ私たちの前に座った翔平は、まったくしゃべろうとしないんです。それだけメジャーか国内かで悩んでいたんでしょう。なかなか決断できず、記者会見も延び延びになってしまい、最後は私の方がしびれをきらして『いい加減にしろ!』と怒鳴ってしまうこともありました」
メジャーリーグ表明会見の3日前(10月18日)にそう話したのは、大谷翔平投手(花巻東・18才)の父・徹さん(50才)だ。徹さんと妻の加代子さん(48才)は、岩手県奥州市を離れて同県の強豪・花巻東高校(花巻市)に進学した大谷投手の成長を静かに見守ってきた。加代子さんはこの3年の日々をこう振り返る。
「甲子園には2度、出させてもらいましたが、2度とも初戦敗退で一度も勝利には届かなかった。私は今年の選抜で大阪桐蔭に負けた時、他の選手のお母さんと『なんであんなに一生懸命がんばっているのに、こういう結果になっちゃうのかな』と泣いていました。
その一方では、『結果が何ひとつ出ていないのに、どうしてこんなに騒がれるのでしょうか』と佐々木洋監督に不思議がっていたぐらいなんです。これからの野球人生のほうが長い。長い目で見てやってください」
甲子園の実績では、今年の春夏甲子園を連覇したライバルの大阪桐蔭・藤浪晋太郎投手(18才)には遠く及ばない。しかし、大谷投手は今夏の岩手大会準決勝で、高校生として史上最速となる160km/hを記録。決勝で敗れ甲子園には行けなかったが、投手としての潜在能力は藤浪投手以上といわれ、また高校通算56本塁打の打力も怪物級だ。
大谷投手のもとには、日本の全球団とメジャー4球団が面談に訪れ、10月25日のドラフト会議を前に、彼の動向に注目が集まった。徹さんと加代子さんは、メジャー球団との面談に同席したという。
徹さん:「確かに身長は大きいですけど、翔平はまだ子供の体です。ヒゲも生えてきていないですし、身長もいまだに伸びている。体ができあがっていないわけですから、面談では育成の方針や環境面ばかりを聞いていました」
加代子さん:「何年マイナーで育成してくださるのか、食事面や通訳のサポートはどうなのか、といったことが主でしたね」
(文/柳川悠二<ノンフィクションライター>)
※女性セブン2012年11月8日号