【マンガ紹介】
『山賊ダイアリー(2)』(岡本健太郎/講談社/570円)
『銀の匙(5)』(荒川弘/小学館/440円)
文/門倉紫麻
「脂の無い牛肉のようです。少しパサつきはありますがクセは感じません」。「やわらかくネチョッとしていて味のない子ダコの頭のようです」。「香ばしくてうまい! 魚と鳥肉の中間のような食感です」。順に、カラスの胸肉、キジバトの心臓、マムシの肉、のお味です。
『山賊ダイアリー』は、子供のころからなりたかった猟師の夢を叶えた著者のエッセイ漫画。獲物を撃つ→料理する→食べる、この繰り返しを、淡々と(ときにややコミカルに)描きます。
特におもしろいのが、料理の過程。キジバトやカラスならば、普通にマンションのベランダで、袋の中で羽をむしり(カラスの黒い羽根の下には白い羽毛が生えているそう)、ガスコンロでうぶ毛を焼き、肉は串に刺してグリルで焼く。マムシは頭を落とし、皮をはぐと“ゴムホース”みたいに。「魚より簡単にさばけますよ」と言われると、思わず「あ、できそう」な気分に。
生き物を自分の手で殺すことへの複雑な気持ちと、収獲の喜び。その両方を同時に感じながら、おいしく全部食べる。恋人には「野蛮」と振られますが、読みすすめるうち「猟で命を奪うのも スーパーで肉に金を払うのも行為としては同じ事」という著者の言葉のほうがまっとうに響いてきます。平成の世とは思えぬワイルドかつ牧歌的な猟師の日々の食事。「おいしそう」より「スゴイ&おもしろい」という形容詞が浮かびます。
『銀の匙』は、北海道の農業高校畜産課が舞台。実習で大事に育てた豚を肉用として出荷することに悩んだ主人公・八軒は、肉になって戻って来た50㎏の豚を自分で買い取ります。七輪で肉をあぶり、「ご飯より肉のほうが多い」豚丼に。
燻製してベーコンに。みんなでガツガツ、おいしく完食。過剰に「命のありがたみ」を強調することはないけれど、真摯に豚に向きあう少年の姿からは、じわっと伝わってくるものがあります。そしてこちらの作品は素直に「おいしそう!」と喉が鳴ります。
獲って食べる、育てて食べる、は難しいですが、今度のバーベキューでは肉を大きめに切って、ガブリといってみましょうか。
※女性セブン2012年11月8日号