若者にとって、満員の電車通勤から解放され、上司や先輩などとの煩わしい人間関係から距離を置くことができ、“自分らしく”働けるワーキング・スタイルはさぞや魅力的なのだろう。
「ノマド」「フリーランス」「セミナー」「自分らしく」などで検索してみると、約56万件がヒットした。「誰も教えてくれないソーシャル時代のキャリアアップとセルフブランディング講座」、「必ず得する『ノマドワーク』スタイルのすごさ 実践セミナー」などが、日本全国のどこかで毎日のように開催されている。
実際に、どんなセミナーが繰り広げられているか調査すべく参加してみた。最初に訪れたのは、某大手セミナー会社主催の「ネットを使った自己プロモーション講座」。講義時間は2時間で、参加費3000円。謳い文句は「ネットを使って、いかに有名になり、自分らしく、やりたい仕事をやるか」だった。
週末の夜7時から2時間、会場に集まったのは約20名。その大半が30代前後の男女だったが、中には白髪まじりの50~60代男性の姿も見られた。講師として現われたのは、40代前半の男性。端正な顔立ちとEXILEのような服装。隣の席に座っていた30代前後の女性が相好を崩しているのがわかる。彼のファンなのだろうか。
セミナー冒頭、講師は自己紹介にたっぷり時間をかける。過去、自分がいかにダメな男だったかについて語る。その後考え方を改め、人間関係の専門家として活動を始めたらブレイクしたのだという。「執筆した本は28冊」「サイトの閲覧数は100万PV」「メディア掲載回数200回以上」など、自分が成し遂げた実績を20分近くかけて説明した。
長い自己紹介の後、いよいよ本番がスタート。「自分がメディアから取り上げられるために用意すべき最強のプロフィール」を作成しろと指示を受ける。実際に彼が壇上でしゃべったのは、セミナー時間の半分ぐらいであろうか。それ以外は、「何を書いたら良いかわからない」とつぶやく参加者たちの席で、個別に指導していた。
講座中は、彼の言葉を誰もが真剣にメモを取っていたため、真似して筆者もメモを取る。講座終了後は、皆が積極的に名刺交換。終了時、自分の手には十数枚の名刺が握られていた。
講座全体を通じて感じたことは、参加者の「真剣さ」と「熱意」が並外れているということである。筆者のような「何となく参加した」感じの人は一人もおらず、ちょっと気後れしてしまった。
※SAPIO2012年11月号