日本政府の尖閣諸島国有化に対しては、親日的として知られる台湾からも漁民が押し寄せ物議をかもした。だが、台湾は尖閣の領有権を主張しているわけではないと語るのは、大前研一氏だ。以下、氏が台湾との交渉について提言する。
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今回は、これまで親日的だった台湾からも漁船が押し寄せ、日本の海上保安庁の巡視船と台湾の海岸巡防署の巡視船が放水合戦を繰り広げる事態となった。あの時、たまたま私は台湾を訪れていたのだが、それを台湾の新聞各紙は「水劇戦」と呼び、1面トップで大々的に報じて大興奮していた。
ただし、実は台湾は中国のように尖閣諸島の領有権を主張しているわけではない。尖閣近海は台湾漁民の「伝統的漁場」だから、漁をさせてほしいといっているだけである。現在、日台間には漁業協定がなく、日本の排他的経済水域(EEZ)内で操業する台湾漁船は取り締まりの対象になっているからだ。
しかし、台湾の要求を日本は拒否し、漁業協議も2009年から中断している。このままいくと、台湾と中国が連携して対日攻勢を強める可能性があるので、まずここは日本が譲歩して台湾漁船の操業を許可し、その代わり実効支配を確定させるべきだと思う。
幸い、日本政府は尖閣諸島周辺での操業ルールを主な交渉テーマとする台湾との漁業協議を、尖閣の領有権問題とは切り離して年内に再開する方針を決め、台湾側も同意したという。これで日台関係が改善すれば、尖閣問題で“後門の狼”はいなくなる。
※週刊ポスト2012年11月2日号