誰しも自らが病気を患えば不安な気持ちになるだろう。病に冒されたのが愛する家族であれば尚更だ。そんな支えを求める人たちに読まれているのが「闘病記」である。これまで2800冊以上の「闘病記」を読み、自身も末期の大腸がんと闘う闘病記専門古書店『パラメディカ』の店主・星野史雄氏(60)に、病を知るために最適な闘病記をガイドしてもらった。
『パラメディカ』には、「ついさっき告知された」という患者からも注文が入る。
「その病気の闘病記を3冊も読めば、どんな病気なのかはだいたいわかる。自分はどこまで病気が進み、治療法には何があり、自分の病院ではどの程度の治療が受けられるのか。闘病記から何を学べるか、お客さんを通じて感じました」
星野氏はそう語るが、よもやその体験が自分自身にも役立つとは、夢にも思わなかったに違いない。
2年前、星野氏は大腸がんであることが発覚する。しかも肝転移を伴う「ステージIV」。いわゆる、“末期がん”だ。手術で大腸の一部と肝臓の4割を切除した。
「僕は大腸がんの本を3冊どころか、100冊以上読んでいたおかげで、比較的冷静でした。それにがんが発覚する直前、たまたま“元気になる大腸がんの本はないか”と頼まれ、3冊読み直していたのは幸運でした」
その3冊とは、日本対がん協会常務理事を務める関原健夫『がん六回 人生全快――現役バンカー16年の闘病記』(朝日文庫)、漫談家・南けんじ『破ガン一笑――笑いはガンの予防薬』(主婦の友社)、元国会議員・田中美智子『さよなら さよなら さようなら』(あけび書房)。
「闘病記を読む最大のメリットは、何をすべきかを考えられること。例えば田中さんは政界引退後の2002年に80歳で大腸がんになり、死ぬ前に1冊エッセイを書きたいと主治医に相談します。残念ながらその時間はないと告げられるのですが、死ぬ気配もない。結局『今日はなん日、なん曜日?』(新日本出版社)まで書き上げ、現在もご存命です。
がんの闘病記を読めば、末期でも宣告されたその日に死ぬことはないとわかります。僕はHPの閉じ方をメモし、もしもの時は姪っ子が“店主は亡くなりました”と書き込めるよう準備できました」
星野氏がいざがん患者となった時、最も心の支えとなったのが、立花隆『がん――生と死の謎に挑む』(文藝春秋)だった。
「立花さんはがん患者の立場で、がん治療の現場や専門家を取材し、“自分が生きている間に、人類はがんを克服できない”と悟る。がんで死ぬことをどう受け入れるか考える姿に、僕自身も“がんでじたばたしない”と、腹を括れたんです」
現在、『パラメディカ』では361種の病気別に2852タイトルの闘病記を掲載している。最も多いのはやはりがんで122種1252タイトル。最近はその内容も多様化しているという。
「がん=死だった時代は終わり。再発や化学療法による生還、副作用など、物語が複雑化しています。例えば『病んで笑って北京』(牧歌舎)は、抗がん剤治療で白血病から生還した体験が綴られている。北京の協和病院で治療を受けたユニークな内容です。
『夫婦同時ガンになって――ガン患者の最新治療報告』(阪急コミュニケーションズ)は、54歳の妻が乳がんを、69歳の夫が中咽頭がんを同時に発症して入院した記録。高齢化社会では、こうした例も珍しくないでしょう。肝臓がん患者の『癌一髪! 悦楽的闘癌記』(マガジンハウス)は、今春出版。がん治療の今がよくわかる入院ガイドになっています」
※週刊ポスト2012年11月2日号