TVドラマ衰退が囁かれて久しいなかで歴史的ヒットを生んだ脚本家が新作を書いたとなれば、注目されないはずがない。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が分析する。
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視聴率40%を叩き出した「家政婦のミタ」の遊川和彦が脚本を手がけるとあって、話題を集めているNHK連続テレビ小説「純と愛」。まずは視聴率19.8%、秋のドラマの中で2位を獲得し、好調な滑り出しのようです。
沖縄・宮古出身で「魔法の国のようなホテルを作ることが夢」というヒロイン「純」を演じる夏菜が、大阪のホテルで修行中。ドラマの評判は? 視聴者の声を見ると……ネット上のドラマ感想掲示板はうなずける点も多くて実に興味深いものが。
「ホテルの従業員なのにガサツすぎる主人公」「朝から大声で怒鳴ってウルサイ」「人の心が見える、という設定がオカルトちっくでついていけない」「超能力話はかんべんして」。
そんな批評の一方で、「これまでの朝ドラに無い新鮮さ」「めくるめくストーリー展開にワクワク」「人間の複雑さを描こうという意欲が伝わってくる」という賞賛も。賛否がくっきり分かれています。
そして私自身の感想を問われれば……このドラマに一票入れたい。大きな筋立てはまだよく見えていません。が、始まったばかりのドラマでも、はっきりと評価できるポイントがあります。それは間違いなく、ドラマの質を決定する要素。「配役陣」です。
まず、母親役の森下愛子。実にゆったりとおおらか、何でも受け止めることができるほんわかぶり。一貫してスローテンポの演技は、沖縄の「海」のイメージを的確に表現できています。
父親役の武田鉄矢は徹底して頑固な孤立ぶりを演じていて、気持ちいいくらい。兄役の速水もこみちも、すぐ女に手を出す軽薄な二枚目兄ちゃんぶりを体現しています。
舘ひろしが演じる、大阪のホテル社長もおかしみが滲み出る。キザがしっかりと板についていて、実に安定感があります。脇でキラリと光るのが、ホテル従業員指導役の吉田羊。髪の毛は一筋も乱れていない。きちっと夜会巻きにアップし、一瞬たりともニコリとしない鬼教官の役作り。コンシェルジェ役の城田優はイケメンぶりを発揮し、宿泊部長を演じる矢島健一はサラリーマン部長をいい味で演じています。
そして、なんと言っても、主人公の相手役、「愛」を演じる風間俊介の力量。「人の顔を見ることができない」という暗く内向的で心に問題を抱えた難しい青年の役柄を、集中力をもってブレずに演じ切る。その演技力に脱帽です。
つまり、このドラマは、「さまざまな役どころをしかるべき場所に配置できていて、役者たち一人一人が的確な演技でそれに応えている」のです。ものごとというのは、決して単独で成り立っているのではない。他との的確なつながりとへただりによってできあがっている。まさしく「星座」のように--。
「星座」という概念によるものの見方を提示したのは、ドイツの哲学者、ヴァルター・ベンヤミンでした。
このドラマは、ベンヤミンの「星座」論をふと思い起こさせてくれました。
個性的な役者たちが「星座」となって、実にうまく配置され、有機的な連携を作り出している。役者たちが作り出す「星座」が、きらめいている。
主人公のバタバタした身振り手振り、ホテル従業員としてあり得ない話し方など、過剰さには違和感もあるのですが、それをカバーして有り余る魅力がこのドラマにはある。だからこそ、多少ドタバタが耳に障っても、今後に期待をかけ一票を入れることができるのです。