来る解散総選挙の対立軸は明快だ。あえて言えば、外交も安保も経済も消費税も争点ではない。日本に絶えて久しいちゃんとした政権ができれば、それら具体的な課題は進むのだから。まずは次の総選挙でどこが勝ち鬨をあげるか、選挙分析の第一人者であるジャーナリスト・野上忠興氏の協力のもと、「既成政党vs第三極」の戦いを分析しよう。
その結果、300選挙区シミュレーションの結果は以下になった。
■予想獲得議席数
政党/小選挙区/比例区/合計
民主党/52/32/84
自民党/112/49/161
日本維新の会/77/41/118
国民との約束(マニフェスト)を破り捨てた民主党は選挙区に加え、比例代表でも惨敗し、現有議席の3分の1に大きく議席を減らしそうだ。
その予測を裏付けるのが、民主党代表選で党員・サポーターの66%が棄権したことだろう。野田首相の地元・千葉でさえ棄権票が6割近くになるなど、閣僚・党幹部の地元で低い投票率が並んだ。固い支持基盤であるはずの党員たちの3分の2が民主党離れを起こしている。無党派層の民主離れはもっと激しいから、議席3分の1が大袈裟でないことはわかって頂けるだろう。
だが、民主党が失う議席を自民党が得るかといえば、そうとも言えない。自民党総裁選でメディアの注目を集め、多少世論調査で政党支持率は伸びたかに見えるが、有権者は自民党が野党に転落した3年間、過去の失政を何も反省していないことを知っている。
自民党の議席が伸びない大きな要素は3点ある。
【1】自民党候補者の寝返り。維新は政党要件を得るために民自の現職議員をスカウトしたが、自民党からはさらに落選中の元議員十数人や新人の公認候補が離党して維新合流に動いている。議席奪還をあてこんでいる有力候補20~30人が維新へ走る可能性がある。
【2】自民党は自公連立以来、十数年にわたり公明党と選挙協力してきたが、今回、公明党は地盤の大阪、兵庫などで維新と選挙協力体制を組む。維新が全国に候補者を立てた場合、自民党はこれまでのように公明票の下駄(各選挙区2万~3万票)を期待できない。
【3】自民党の基礎票は野党生活で細っているうえ、民主党政権への不満票の多くは維新など第三極が吸収する。自民党の単独政権はおろか、従来の自公の枠組みでも過半数は難しい。
接戦選挙区を落としていけば、「アンシャン・レジーム」(旧体制)が3党合わせても過半数に届かない可能性すらある。
では、第三極はどこまで伸びるか。「維新の会は関西での支持に加え、既存の政治では震災復興が進まないことに不満を募らせる東北地方など、全国に支持が広がってきた。自民党総裁選の期間に維新が支持を落とし、自民が数字を伸ばしたものの、既成政党への不満の受け皿として、小沢一郎・代表率いる国民の生活が第一や河村たかし・名古屋市長の減税日本もある。
メディアは総じて過小評価しているが、地域によってはそれら政党への支持も高い。第三極勢力は独自に選挙を戦うので候補が重複して共倒れになる可能性もあるが、それでも民自公の現職代議士のうち、小選挙区で勝てる見込みが高い候補者は半分もいない」(野上氏)
日本維新の会は118議席前後を獲得し、最大値ならば143議席で比較第2党になるとの予測結果となったが、「最大値」を引き出すには橋下氏が先頭に立って選挙を戦うことが条件になる。橋下氏は大阪で、市役所や労組といった既得権勢力と徹底的に対決し、改革を推し進めた。その“突破力”が府民・市民から喝采を浴び、さらには支持や期待が全国へと広がった。橋下氏が出馬するかしないかは、まだ残された不確定要素では最大のものと言える。
そしてもうひとつの大きなファクターが、第三極が連携できるかどうかだ。選挙協力もあるが、それ以前に有権者が、「自分の票によって新しい政権ができる」と信じられるかは大きい。今のところ主導権争いや駆け引きが目につく第三極同士が真の連合を組めるか。
■野上忠興(政治ジャーナリスト)と本誌取材班
※SAPIO2012年11月号