次期総選挙の台風の目となりうるのは橋下徹・大阪市長個人のカリスマ性とともに、小沢一郎氏の動きだと語るのは、ジャーナリストの武冨薫氏である。橋下氏は国政に進出するのか、果たして大阪にとどまるのか。以下、氏が総選挙後をにらんだ動きについて解説する。
* * *
見落とせないのは、橋下氏が「大阪籠城」の素振りを見せると同時に、「国民の生活が第一」の小沢一郎・代表が動き出したことだ。
「オリーブの木」(注)構想を掲げる小沢氏が生活をはじめ新党大地・真民主、減税日本など7党派の「国民連合」を軸に、維新とは別に総選挙を戦う戦略を立てていることは『SAPIO』前号でレポートした。
だが、小沢氏は「どこも過半数を取れない」と周囲に語っており、総選挙後は民自公3党連合に対抗して維新を含めた第三極主導の政権を作るシナリオを描いている。1993年の総選挙後に8党派による細川連立政権を樹立した手法と重なる。総選挙後をにらんだ布石はすでに打たれた。
日本維新の会は政党要件を満たすために結党にあたって現職国会議員9人をスカウトし、民主党を離党した松野頼久・元官房副長官が国会議員団長に就任した。松野氏は、民主党時代は鳩山グループ幹事長として鳩山元首相と小沢氏のパイプ役を務めた。いわば「小沢氏の隠れ側近」(鳩山グループ議員)だ。
「松野氏は消費税造反組で民自公の大連立に反対の立場。総選挙後の政界再編に当たって、小沢さんと維新をつなぐパイプ役として期待されている」(生活の中堅議員)
維新が総選挙で大きな勢力を得たとしても、それを足がかりに政権の座につくには永田町の合従連衡の中で多数派を形成しなければならない。国政経験のない橋下氏にそれができるかは未知数だ。しかも、仮に政権の座についても、霞が関を相手に改革を実現するのは至難の業だ。そこを補完する役割として小沢氏が必要とされる余地は十分ある。
橋下氏は小沢氏の改革姿勢を一貫して高く評価している。自民党三役経験者はこう見る。「橋下氏は国政に出て霞が関と戦う場合、協力を求めることができるのは豪腕の小沢氏しかいないと考えているから、一定の距離を保ちつつ、決して関係を断とうとはしない」
小沢氏側近からは、近く小沢氏と橋下氏が公の場で会談すると示唆する声も出ている。維新が単独で全国に候補者を擁立する方針を掲げたのも小沢氏には好都合かもしれない。維新はみんなの党との合併破談に続いて、河村たかし名古屋市長の減税日本も「連携できない」(松井知事)と突き放した。
河村氏は小沢氏とのパイプが太く、現在も水面下で連携を探っている。河村氏は、生活の結党の際、「増税に反対する人は応援する」とエールを送ったものの、総選挙の連携先としては、「申し訳ないが生活より地方政党である維新を優先したい」と維新との選挙協力を目指してきた。
だが、維新がこのまま“我が道をゆく”と独立路線を強めれば、改めて「オリーブの乱」にそれ以外の第三極が結集する可能性が出てきた。そして橋下維新と小沢オリーブ連合という2つの第三極勢力が選挙後に手を組む可能性は、選挙協力よりむしろ高い。
■注/1996年のイタリア総選挙で統一首相候補を掲げて勝利した中道左派連合の呼称。民主党離党後に小沢氏が、反増税・脱原発・地域主権など大テーマで一致する複数の野党が連携して政権を目指す構想として提唱している
※SAPIO2012年11月号