「おい、小池!」──。
2001年の徳島市の父子殺害事件で指名手配され、岡山で死亡が確認された小池俊一容疑者(52・死亡)を追い続けて11年。テレビに積極的に出演して情報提供を募った“リーゼント刑事”こと秋山博康警部は日本一有名な刑事といっても過言ではないだろう。
寄せられた目撃情報4000件以上。だが執念の捜査は実らず、最悪の結末を迎えることになった。苦渋の捜査を振り返る。
2001年4月、松田優さん(享年66)と長男の浩史さん(同38)が徳島市の自宅と兵庫県淡路島の別荘造成地で焼死体となって見つかった。2人は鈍器で殴られ首を絞められたうえ、灯油をかけられ燃やされた。
合計4000万円の貯金通帳が盗まれた計画的な犯行。捜査線上に上がったのが前年に詐欺容疑で出所したばかりで二人とはパチンコ店で接点のあった小池容疑者だった。だが捜査班が全容を把握したときには既に小池容疑者は姿をくらませていた。捜査関係者が振り返る。
「捜査が追いつかなかったのは事件の指名手配直後に、ある街の町長宅で金塊が盗まれる事件が起こり、そちらに人が割かれたという事情もあります。最後に小池の携帯電波が確認できたのは名古屋。以来、10年近く足取りがわからなかった」
遅れた初動捜査への悔恨──秋山警部は被害者遺族が悲しみ憤る姿に接して、忸怩たる思いだった。しかし、犯人の居場所どころか、足取りすらもわからない。
そこで考え出されたのが「おい、小池!」のキャッチで知られるポスターだった。秋山警部が説明する。
「事件が発生して1、2年すると情報提供の数が激減した。これではまずいと考え、効果的な呼びかけをしようと考案したのがあのポスターです。それまでのキャッチは『この顔をみれば110番』とありきたり。そこで大学の美術関係の先生に相談して『おい、小池!』の台詞とポスターの図案を考えてもらったんです」
ちなみにもう一案として検討され、最終的に却下されたフレーズが〈人を殺して焼いた顔〉だったという。
ポスター変更の効果はてきめんだった。
「情報提供はほぼゼロだったのが年に200件を超えるようになった」(秋山警部)。
現在に至るまでのポスターの作成数は108万枚。小池の名前と顔が刷られたポケットティッシュやうちわも配られたという。
※週刊ポスト2012年11月9日号