いまや「うつ病」が国民病であることに異論を挟む人はいないだろう。そのことを裏付けるように、昨年、厚生労働省は、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病の4大疾病に、精神疾患を加え「5大疾病」とする方針を決定した。
日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真氏が、うつ病をめぐる現状を語る。
「日本人のうつ病の生涯有病率は6.7%。100人いたら6~7人は一生のうちに一度はうつ病を発症することになります。統合失調症の場合が約1%ですから、その発症率の高さがお分かり頂けると思います」
気分障害患者の数は年々増え続けている。中でもうつ病の患者数は、2008年に70万4000人と、1996年の20万7000人から大幅に増えている。しかもこの数字は、あくまでも“心の不調”で医療施設を利用した患者数。つまり、潜在的なうつ病患者の数はこの数倍にも上るといわれているのだ。
近年では、若者を中心に「新型うつ」が急増するなど、その症状も多様化。現代はまさに“うつの時代”といっても過言ではない。その背景にあるのはストレスだと前出・内山氏は指摘する。
「うつ病発症のメカニズムは完全に解明されていないのが現状です。しかし、うつとストレスに強い関連性があるのは間違いない。精神と肉体に強いストレスがかかったとき、そのストレスを回復する機能が働くわけですが、そこに何らかの不調をきたしたせいで憂鬱感が続く。これがうつ病の中核なのです」
例えば重症のうつ病患者では、ストレスがかかると分泌されるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の調整機能が破綻しているといった所見が確実にみられるのだという。
「仕事に対して『こんなもんだ』と考えるのと、『きちんとやるしか途はない』と思いつめるのとでは、ストレス機構の反応は変わってきます。マジメな性格が悪くて、いい加減な性格ならいいという議論ではなく、ストレスを受けたときどのように解消するのかが問題。ときにはある程度の妥協も必要なんです」(内山氏)
過労、人間関係、将来や雇用への不安、事故や災害など、我々の生活はストレスに囲まれている。何をストレスと感じ、どう解消するかは、性格や価値観、家庭や職場の環境によって大きく変わるとはいえ、知らない間にストレスの影響を受けている可能性は高い。
※週刊ポスト2012年11月9日号