1980年代後半、米証券会社ソロモン・ブラザーズに入社し、同社の高収益部門の一員として活躍し、巨額の報酬を得た後に退社した赤城盾氏。赤城氏が、民主主義と経済の関係について解説する。
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経済成長が止まれば、資本主義に対する信頼が揺らぐ。貧富の格差の拡大が、その不信を増幅する。そして、有効な解決策を示せずに、党利党略に奔走する「民主主義的な」政治家に失望した大衆は、独裁的で強力なリーダーシップに活路を見出す誘惑に駆られてしまう。
民主主義が捨てられるプロセスは、かくも単純にして明快である。しかも、始末の悪いことに、独裁者は時に国民の期待によく応えた。
ヒトラーは、時代を先取りした大胆な公共事業によって、どん底にあったドイツ経済を立て直し、再軍備を果たして大いに国威を高揚させた。我が帝国陸軍も、中国大陸で連戦連勝、瞬く間に主要都市を占領した。
多くの善良なドイツ人がヒトラーにいかがわしさを感じていただろうし、軍人が威張り散らす世の中を毛嫌いした日本人も多かったはずである。しかし、圧倒的な実績がもたらす大衆的な人気が批判を封殺してしまう。
あらゆる商業的なメディアは、大衆迎合的にならざるを得ない宿命の下にある。要するに、買い手のつかない情報は流通しないのである。
もちろん、少数意見の買い手もいるにはいるが、売り上げを伸ばして社員の待遇をよくするためには、多数意見を売ったほうがいいに決まっている。のみならず、飛ぶ鳥を落とす勢いのナチスや帝国陸軍の不興を買って取材に差し障りの出ることを恐れるから、そもそも批判記事は掲載されにくい。
このように回顧した上で、政治家をタレント化させて視聴率や部数を伸ばそうとする今の日本のメディアの状況を見れば、我々がいかほど進歩したものか、はなはだ心もとない。幸か不幸か、ヒトラーのように圧倒的な実績を上げて数字が稼げる政治家が現われなかっただけではあるまいか。
※マネーポスト2012年秋号