京都・太秦の東映京都撮影所から車で10分ほど、江戸時代初期に建てられた高台にある小さな寺院。秋の行楽客でにぎわう京都だが、ここは訪れる人もなく、小鳥のさえずりと虫の鳴き声だけが聞こえてくる。
寺の敷地に入り、小さな石段を登っていくと、京都の街並みが一望できる場所に辿り着く。まだ若い桜の木が風に揺れていた。
その下にあるノートパソコンほどの大きさの黒い墓石。「Y・N家 聖地」と書かれた札が立てられている。
そこには、名取裕子(55才)の愛犬・ブブが眠っている。
愛犬家として知られている名取が飼っていたのは、メスのミニチュアダックスフント。母のブブ(17才)とその娘のジジ(14才)、そして友人から引き取ったココ(5才)の3匹だ。
“おひとりさま”の名取は、3匹の愛犬を何よりも大切にしてきた。自著『犬の花道、女の花道』(集英社文庫)でこう綴っている。
<肉親よりも肉親らしい存在。片時も離れられない。離れては生きていけない>
京都での撮影が多い彼女は、ホテルではなく、わざわざ撮影所近くの〝ペット可〟のマンションを借りて生活している。とにかく愛犬と一緒に過ごしたいという思いからだった。
だが、今年6月、ブブがこの世を去ってしまい、名取はブブを弔うため、冒頭の寺に墓を買ったのだった。
この墓はブブだけのものではない。ジジとココはもちろん、名取自身も一緒に入るつもりなのだという。つまり、彼女はペットと一緒に入れる墓を購入していたのだ。
全国6600か所の霊園や墓地を紹介するサイト『いいお墓』によると、そのような墓は、現在、全国に99か所しかないそうだ。
「犬や猫は、仏教の六道でいうところの『畜生』で、人間とは区別されるものとして捉えられているんです。そういった仏教的観点から、人間とペットのお骨がお墓に一緒に入るのは好ましくないと考えられているんです」(『いいお墓』運営元の鎌倉新書・西本暢氏)
さらに西本氏が続ける。
「関東の霊園は柔軟な発想をするところが多くなってきましたが、伝統的な仏教寺院が多い関西は保守的で、ペットと一緒に入れるところはまだまだ少ないのが実情です」
※女性セブン2012年11月8日号