不眠症やうつ病を始めとする精神的ストレスで悩む人が増えたことで、国内では精神科を標榜する医療施設が増えている。その数は2008年には一般病院で1539件、診療所で5629件に上る。これは1996年の約1.6倍だ。
日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真氏はこう語る。
「不眠症やうつ病は早期に発見し治療しないと悲劇につながります。近年、患者数が増え、うつ病を“心の風邪”のようにとらえる風潮もありますが、うつは重症になるほど完治が難しいのです。この点を理解して、初期段階できっちりと診察を受けてもらいたい」
うつ病では悲観的で否定的な思考が繰り返されるが、そこに不眠の症状が重なると肉体的にも疲労感が増すことになる。その結果、自殺という最悪のパターンを引き起こすことも少なくない。
日本では14年連続して自殺者が3万人を超えているが、健康に関する原因・動機のトップはうつ病である。2009年には約7000人もの人がうつ病を理由に自殺しているが、これは統合失調症など、他の健康問題を原因にした自殺者の数を大きく引き離している。うつ病と、それを引き起こす不眠症が国民にとって重大な問題であることを表わしている数字だろう。
「何となく眠れない」という違和感を覚えたときは、すぐに治療を受けることが重要だ。不眠とうつの“負の鎖”を断ち切ることが、現代社会を生き抜く術なのである。
※週刊ポスト2012年11月9日号