「お金儲けって悪いことですか!」
金融市場は2つの意味で残酷である。ひとつは金が絶対的にものをいう世界であるということ。資金が無ければ即退場がルールである。もうひとつは、それでも金を稼ぎすぎた“出る杭”は打たれるということ。その辛酸を嫌というほど舐めたのが、逮捕直前の会見で冒頭のように言い放って表舞台から去ったカリスマファンドマネージャーの村上世彰氏だ。
ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引事件で逮捕されてから6年。あの村上氏が、ついに証券市場に舞い戻ってきた――。
10月17日、SBIホールディングス株に関する大量保有報告書が提出された。保有割合は5.85%、時価にして73億6800万円。突如、大株主となったのは、「レノ」という聞き慣れない投資会社だった。
SBIは、前身をソフトバンク・インベストメントといった。現在は銀行や証券会社を抱える金融グループで、あのソフトバンク社長の孫正義氏の盟友ともいわれたカリスマ証券マンの北尾吉孝氏がCEOを務めている。
その大手企業の株が大量に買い進められているとあって市場は騒然とした。しかも、このレノの背後に、ある大物投資家が控えているという。それが村上世彰氏だといわれているのだ。
この秋口に村上氏と顔を合わせたという金融関係者が明かす。
「裁判終了後、シンガポールに移住した村上さんは定期的に日本に帰っている。髪の毛は真っ白だから、ひと目見ただけじゃわからないぐらい変わっている。
ただ、バリバリとやっていた頃のパワフルさは今もまったく変わっていない。『シンガポールにいても、いろんな(投資の)案件が持ち込まれて忙しいよ』といっていた。最近もその案件を日本にいるスタッフと共に進めているようだ」
そのスタッフがいるのが、前出の投資会社「レノ」だとされる。所在地である東京・南青山のビルには、村上氏ゆかりの企業やNPO法人がこぞって入居し、村上氏自身もこのビルにしばしば顔を見せる。レノの法人登記を見ると、役員欄には旧村上ファンドの中核を担ったメンバーがズラリと並んでいた。
中でも村上氏が信頼を置いているとされるのが、レノの代表取締役である三浦恵美氏だ。30代後半のスレンダー美女は、旧村上ファンドでM&Aの実務を担当しており、村上氏の側近と呼ばれていた。
彼女は村上氏のインサイダー事件をめぐる公判すべてを傍聴している。一審で実刑判決が下された時には激昂し、ある週刊誌の取材にこう答えていた。
「この日本に復讐します」
そこまで村上氏に心酔していた三浦氏が率いるレノが、大企業の株を買い進めたことで、「村上がついに復活したのか」と市場が色めきたっているのである。
証券界に身を置くものの間では、「村上さんはあのSBIを相手に敵対的買収を仕掛けるのではないか」「いや、単に値上がりを見込んだ純投資だ」、あるいは「SBIの経営に行き詰まった北尾さんが、村上さんを頼ったのではないか」などと口々に噂されている。
※週刊ポスト2012年11月9日号