暴力団排除条例が全都道府県で施行されるようになった2011年10月以降、暴力団を取り巻く環境は激変している。『続・暴力団』(新潮新書)の著者・溝口敦氏よるレポートである。北九州市では今年8月以降、暴力団の立入禁止標章を張り出した店の経営者や従業員が傷つけられる事件が相次いだ。溝口氏はこの状態が全国に拡大する恐れを指摘する。
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警察の捜査能力の低下、検挙率の大幅ダウンも全国に拡大しようとしている。
いい例が9月2日、東京・六本木で起きた飲食店経営者撲殺事件である。警視庁の捜査一課(殺人)を中心とする捜査本部はあれほど鮮明な犯人画像を入手しながら、50日以上たった今なお、実行犯9人のうち1人として逮捕できていない。
少なくとも犯人の中には関東連合OBの中堅クラス1人が含まれている。本部もそれは分かっているのだが、なにしろ気づいたときには海外への高飛びを許していた。今となっては手の打ちようがない。
こうして警察のやることなすこと、すべて後手後手。暴力団の陰に隠れていた関東連合OBなど半グレ集団の台頭を見逃し、暴力団とちがって半グレ専用の取締法どころか、長らく警察のどの部署が半グレを担当するかさえ決めていなかった。もちろんデータの蓄積もなく、属性について研究もしていない。
たとえば去年暮れ、六本木で起きた山口組直系落合金町連合幹部襲撃事件である。警視庁は、加害側の関東連合OBについて、山口組の系列に列なる組織として、暴力団対策法が適用できないか、検討していたという。
あまりの時代錯誤に驚く。半グレ集団は暴力団を割に合わない、今ヤクザをやってるのはバカだ、と嫌っていたからこそ、暴力団に籍を置かず、半グレのままなのだ。
たしかにごく一部の半グレは住吉会などに所属している。が、それはあくまでも例外である。半グレのままなら暴対法も暴排条例も対象外。「何が悲しくて今さら暴力団に入らねばならないの」という心情が彼らの基本であることを警察は理解していない。
※週刊ポスト2012年11月9日号