鍋が恋しい季節――。ここ数年は王道の「寄せ鍋」や「キムチ鍋」だけでなく、さまざまな味のダシ入り鍋用スープが食品メーカー各社から販売されては一大ブームを巻き起こし、市場全体の規模は300億円に達する勢いだ。果たして、今年の鍋市場を征するのはどこか。
飲食店検索情報サイト「ぐるなび」の最新アンケート調査によると、2009年から話題となっている「トマト鍋」の人気が女性を中心に根強く、今年は魚介ダシを加えた「海鮮トマト鍋」にトレンドの兆しがあるという。アンケートでも「ぜひ食べてみたい」と「まあ食べてみたい」を合わせると7割もの支持を得た。
「メタボ予防にトマトが効果的という報道の影響などもあり、トマトは関連商品も含めて息の長いブームになっています。そのおかげでトマトジュースの国内シェア6割を誇るカゴメの9月中間決算は最終利益で過去最高の56億円(前年同期比88%増)を記録しました」(食品業界紙記者)
もちろん、カゴメは家庭用鍋メニューでもトマト商品を前面に押し出している。4年前から売り出している『甘熟トマト鍋』『海鮮スープのトマト鍋』のさらなる販売促進を掲げ、トマト鍋の定番化を狙っている。
一方、今年ヒットとして爆発的に普及した万能調味料の「塩麹」が、“台風の目”として鍋業界にも押し寄せている。市場調査会社の富士経済の調べでは、2011年にわずか2億円だった塩麹訴求食品の市場規模は、2012年はなんと31倍の62億円と急拡大が見込まれている。
「今年の初めは小規模な地場メーカー主体であったため生産が追いつかずに販売ロスも生みましたが、5月以降、大手味噌メーカーが相次いで麹市場に参入。秋冬向けに調味料メーカーからも鍋つゆなど派生商品も販売されているため市場は拡大し続けています」(富士経済担当者)
実際に各社の塩麹を使った鍋用スープの新商品を見てみると、『塩麹でつくる白湯鍋スープ』(キッコーマン食品)、『塩麹鍋つゆ』(ヤマサ醤油)、『塩こうじ鍋』(富士甚醤油)、『糀と生姜の豆腐スープ鍋』(新進)、『うどんが美味しい<塩糀鍋>』(マルコメ)……と、まさに群雄割拠の販売ラッシュとなっている。
塩麹鍋の魅力について話すのは、栄養学博士の白鳥早奈英さん。
「塩麹そのものの味というより、乳酸菌や分解酵素の働きによって、肉や魚介を柔らかくして素材の旨味を引き出す効果があります。また、低カロリーなので健康にもよいですし、これから鍋に限らず家庭で欠かせない調味料になると思いますよ」
トマト鍋VS塩麹鍋。ブームの勢いからいえば塩麹に軍配が上がりそうだが、方や厳しい見方もある。
「健康に訴えかける副次的な要素は他の食品にもありますし、塩麹はどういったメニューにどのくらいの量を使えばいいのか分からない消費者も多い。そのため、レシピの普及や定番メニューの確立を浸透させない限り、一過性のブームで終わる可能性もあります」(前出・業界紙記者)
なにはともあれ、簡単スープの鍋を食して、味の違いを確かめるところから始めたい。