今年1月、読売新聞が朝刊一面で「首都直下型M7級4年以内70%」と大々的に報道した。東日本大震災からまだ1年も経ていない時期だけに、首都圏住民に衝撃が走った。
新聞に試算を明らかにしたのは、東大地震研究所・平田直教授の研究チームである。地震に関しては“反予知派”の筆頭である東大大学院・ロバート・ゲラー教授は今も呆れている。
「厳しいチェックを受けた試算ならともかく、データの取り方を含め、あまりにも杜撰でした。なぜ無理をしたのか。私は予算確保の側面があったと思う。日本では予知研究に予算が出やすい。でも成果も出にくい。だから『注意喚起』という形でマスコミに報じてもらえれば、国民の期待をつなぎとめられるし、予算取りにも繋がるのです」
東大地震研は本郷の広大な敷地の奥まった一角にある。平田教授は取材に自らの研究室で対応した。まずは地震予知に対する認識について質した。
「一般の方が求めている予知とは、何月何日、どこにマグニチュード幾つの地震が来るかという情報でしょう。この意味の地震予知が現段階でできないのは事実です。ただ、予知批判派の学者がいうような『原理的に不可能』ということはありません。着実に進歩はしているんです」
原理的に不可能ではないと主張しつつ、現時点での「短期予知」については難しいと認めた。ならば、なぜ「首都直下型M7級4年以内70%」というセンセーショナルな発表をしたのか。
騒動の顛末については、「4年以内」という数字が独り歩きをしたと弁明する。
「M7クラスの地震は南関東で100年に5回程度の頻度で起きています。次に地震が起こるのは周期的に考えると4年後だったからそう警告しただけで、いつ起きても不思議ではない」
平田教授が地震研のなかでも最大級の予算を獲得するスター教授であるのは間違いない。
首都圏直下型地震に対応する防災プロジェクトを文部科学省などから受託、2010年度で約4億9000万円の予算を受けた。他に独立行政法人から受託されたデータセンター運用業務もあり約2300万円。これらの継続は、研究室の死活問題。先の防災プロジェクトは、今後5年間の研究事業として引き継がれている。
●レポート/伊藤博敏(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2012年11月9日号