「ミソもクソも一緒にした議論はやめていただきたい」
連日国会を騒がせている復興予算流用問題に関して、枝野幸男・経産相が口にした言葉だ。10月18日、参院決算委員会で被災地の補助金が不足していることを自民党から指摘されると、こうまくし立てた。
「地域の(復興)計画が立たないなどさまざまな事情から被災地で予算を執行できていないことと、被災地以外に予算が使われていることは、理由も原因も全然別の話だ」
枝野氏はその後、「ミソもクソも」という表現については「上品でなかった」と撤回したものの、内容そのものは否定していない。
要するに主要閣僚自ら、「復興予算はミソにもクソにも注ぎ込んだ」と開き直ったのだ。その上で枝野氏は、被災地の復興が進んでないのは被災地の問題、と責任転嫁までしてみせた。
このように、いま永田町と霞が関では、流用問題の責任を回避しようと、政治家と官僚の狡猾な「言い訳合戦」が展開されている。
3か月前、週刊ポスト(7月30日発売)が復興予算流用問題をスクープすると、財務省内は「これは大変なことになる」と蜂の巣をつついた騒ぎとなった。
そこで財務省が作成したのが、通称「安住ノート」という反論文書である。復興予算について「19兆円の枠を超えざるをえない」と公言した安住淳・前財務相の名にちなんでこう呼ばれる内部文書は、「8月10日 週刊ポストの記事について」と題し、「事実誤認やミスリーディングと考えられる例」を並べている。
安住ノートは9月になって本誌の後追い特集をしたNHKや毎日新聞についても同様に作成され、官僚を通じて記者クラブや政治家たちにバラ撒かれた。
なぜこのようなものが作成されたのか。本誌発売直後から流用問題を追及している河野太郎・衆院議員(自民党)が解説する。
「週刊ポストの報道を他メディアに後追いさせないように、インチキ記事、インチキ報道だというイメージを付けたかったからですよ。彼らは反論文書を使って、他メディアに印象操作をしていたんです」
効果は覿面(てきめん)だった。流用問題が本格的な騒動になるのは、河野氏ら衆院決算行政監視委員会が取り上げた10月になってからだ。それまで大メディアは、積極的に扱おうとはしなかった。
ジャーナリストで東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏はいう。
「記者クラブはふだん財務省主計局からのレクチャー通りに書いているから、彼らの反論には弱い。ただ今回は政府や国会が動いた。記者クラブは『本紙が~』ではなく『政府が~』とか『国会が~』だと安心して書けるのです」
政治家の後ろ盾がなければ官僚攻撃もできないとは、何とも情けない。
※週刊ポスト2012年11月9日号