国内

北九州で一般人が突然顔を切り付けられるなどの被害が続出中

 暴力団排除条例が全都道府県で施行されるようになった2011年10月以降、暴力団を取り巻く環境は激変している。『続・暴力団』(新潮新書)の著者・溝口敦氏よるレポートである。

 * * *
 福岡県の暴排条例はその第14条2項で「暴力団員立入禁止の標章」について定めている。熊本県にも同様の条項があるが、他の都道府県の条例には今のところ移入されていない。
 
 風俗営業や特定接客業者は店にこの標章を掲示することができ、標章を無視して、立ち入った暴力団組員には50万円以下の罰金が科される。標章制度が実施されるのは北九州市、福岡市、大牟田市、久留米市、飯塚市の特定した繁華街である。
 
 首都圏はじめ全国には似たような標章を掲げる店があるが、これは単に掲げているだけで、入店しようとする暴力団を阻止できない。この点、福岡方式は条例で裏付けられ、暴力団に実害をもたらす。組員はおちおち店で飲めないばかりか、みかじめ料や用心棒代を取り立てに、店に立ち寄ることもできない。
 
 北九州市ではこの立入禁止標章を張り出した店の経営者や従業員が傷つけられる事件が今年8月以降、相次いだ。
 
 8月30日午前2時15分ごろ 八幡西区の雑居ビルでスナック従業員の女性(事件時44)が顔などを切り付けられた。
 
 9月1日午前1時半ごろ 小倉北区のマンション通路で飲食店経営の女性(同55)が顔などを切り付けられた。
 
 9月7日午前1時ごろ 小倉北区のマンション前でスナック経営の女性(同35)と、助けに入ったタクシー運転手の男性(同40)が顔や首などを切り付けられた。
 
 9月10日夜 小倉北区と八幡西区の飲食店約70店に標章を外すよう脅迫電話があった。
 
 9月26日午前0時40分ごろ 小倉北区のマンション下で飲食店経営会社の男性役員(54)が尻や腿を刺された。
 
 また北九州市では飲食店の不審火騒ぎも続いた。
 
 今年8月1日午前3時45分ごろ 八幡西区の雑居ビルで不審火。
 
 8月14日午前4時半ごろ 小倉北区の雑居ビルで不審火。
 
 8月14日午前4時45分ごろ 小倉北区の別の雑居ビルで不審火。
 
 10月8日午前4時55分ごろ 小倉北区のスナックを全焼。ただしこの店は9月にいったん掲げていた立入禁止標章を、警察官立ち会いの上で外していた。
 
 10月10日午前4時半ごろ 八幡西区のビルオーナー宅の木製門扉に付け火。50センチ四方を焼いた。ビルは標章制度の対象地区内にあり、標章を掲げる店が数店入居している。
 
 北九州市には警察庁の指示で今年4月から月に延べ900人の機動隊員が集中投入され、市民の警備に当たっている。
 
 警察庁は7月には、未解決事件の山に業を煮やし、暴力団捜査に精通した捜査員をも北九州市に送り始めた。警視庁からは10人、静岡や鳥取、岐阜県警などからも捜査員が派遣され、2013年春までに200人を送り込み、暴力団捜査に当たらせるという。
 
 が、警察庁がいかに歯がみしても、犯人逮捕には至っていない。福岡県警は何をしている、無能すぎると、市民の非難が集まっている。飲食店の中にはせっかく張った標章を外す動きも広がっている。警察が守ってもくれないのに、業者が暴力団対決の前面に出て血を流すのはご免という気持ちである。
 
 北九州の北橋健治市長も事件が解決しないことにいらだち、「犯人検挙こそ最大の暴追運動だ」と福岡県警に苦言を呈した。
 
 こうして地元の住民が次々血祭りにあげられる事件について、北九州市に本部を置く指定暴力団、工藤會の木村博幹事長は言下に関与を否定する。
 
「われわれが事件に組織的に関与したということはいっさいありません。そういう報告が執行部に上げられたこともない。万一うちの会員の関与が判明したのなら、即刻その者にそれ相応の償いをさせます。今までもそうしてきたはずです」

※週刊ポスト2012年11月9日号

関連記事

トピックス

母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
「ガッポリ建設」のトレードマークは工事用ヘルメットにランニング姿
《嘘、借金、遅刻、ギャンブル、事務所解雇》クズ芸人・小堀敏夫を28年間許し続ける相方・室田稔が明かした本心「あんな人でも役に立てた」
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《真美子さんの献身》大谷翔平が「産休2日」で電撃復帰&“パパ初ホームラン”を決めた理由 「MLBの顔」として示した“自覚”
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《ラジオ生出演で今後は?》永野芽郁が不倫報道を「誤解」と説明も「ピュア」「透明感」とは真逆のスキャンダルに、臨床心理士が指摘する「ベッキーのケース」
NEWSポストセブン
日米通算200勝を前に渋みが続く田中
15歳の田中将大を“投手に抜擢”した恩師が語る「指先の感覚が良かった」の原点 大願の200勝に向けて「スタイルチェンジが必要」のエールを贈る
週刊ポスト
渡邊渚さんの最新インタビュー
元フジテレビアナ・渡邊渚さん最新インタビュー 激動の日々を乗り越えて「少し落ち着いてきました」、連載エッセイも再開予定で「女性ファンが増えたことが嬉しい」
週刊ポスト
裏アカ騒動、その代償は大きかった
《まじで早く辞めてくんねえかな》モー娘。北川莉央“裏アカ流出騒動” 同じ騒ぎ起こした先輩アイドルと同じ「ソロの道」歩むか
NEWSポストセブン
主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
【斎藤元彦知事の「公選法違反」疑惑】「merchu」折田楓社長がガサ入れ後もひっそり続けていた“仕事” 広島市の担当者「『仕事できるのかな』と気になっていましたが」
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
【「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手】積水ハウス55億円詐欺事件・受刑者との往復書簡 “主犯格”は「騙された」と主張、食い違う当事者たちの言い分
週刊ポスト
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(61)と浜田雅功(61)
ダウンタウン・浜田雅功「復活の舞台」で松本人志が「サプライズ登場」する可能性 「30年前の紅白歌合戦が思い出される」との声も
週刊ポスト
4月24日発売の『週刊文春』で、“二股交際疑惑”を報じられた女優・永野芽郁
【ギリギリセーフの可能性も】不倫報道・永野芽郁と田中圭のCMクライアント企業は横並びで「様子見」…NTTコミュニケーションズほか寄せられた「見解」
NEWSポストセブン
ミニから美脚が飛び出す深田恭子
《半同棲ライフの実態》深田恭子の新恋人“茶髪にピアスのテレビマン”が匂わせから一転、SNSを削除した理由「彼なりに覚悟を示した」
NEWSポストセブン