暴力団排除条例が全都道府県で施行されるようになった2011年10月以降、暴力団を取り巻く環境は激変している。『続・暴力団』(新潮新書)の著者・溝口敦氏よるレポートである。
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福岡県の暴排条例はその第14条2項で「暴力団員立入禁止の標章」について定めている。熊本県にも同様の条項があるが、他の都道府県の条例には今のところ移入されていない。
風俗営業や特定接客業者は店にこの標章を掲示することができ、標章を無視して、立ち入った暴力団組員には50万円以下の罰金が科される。標章制度が実施されるのは北九州市、福岡市、大牟田市、久留米市、飯塚市の特定した繁華街である。
首都圏はじめ全国には似たような標章を掲げる店があるが、これは単に掲げているだけで、入店しようとする暴力団を阻止できない。この点、福岡方式は条例で裏付けられ、暴力団に実害をもたらす。組員はおちおち店で飲めないばかりか、みかじめ料や用心棒代を取り立てに、店に立ち寄ることもできない。
北九州市ではこの立入禁止標章を張り出した店の経営者や従業員が傷つけられる事件が今年8月以降、相次いだ。
8月30日午前2時15分ごろ 八幡西区の雑居ビルでスナック従業員の女性(事件時44)が顔などを切り付けられた。
9月1日午前1時半ごろ 小倉北区のマンション通路で飲食店経営の女性(同55)が顔などを切り付けられた。
9月7日午前1時ごろ 小倉北区のマンション前でスナック経営の女性(同35)と、助けに入ったタクシー運転手の男性(同40)が顔や首などを切り付けられた。
9月10日夜 小倉北区と八幡西区の飲食店約70店に標章を外すよう脅迫電話があった。
9月26日午前0時40分ごろ 小倉北区のマンション下で飲食店経営会社の男性役員(54)が尻や腿を刺された。
また北九州市では飲食店の不審火騒ぎも続いた。
今年8月1日午前3時45分ごろ 八幡西区の雑居ビルで不審火。
8月14日午前4時半ごろ 小倉北区の雑居ビルで不審火。
8月14日午前4時45分ごろ 小倉北区の別の雑居ビルで不審火。
10月8日午前4時55分ごろ 小倉北区のスナックを全焼。ただしこの店は9月にいったん掲げていた立入禁止標章を、警察官立ち会いの上で外していた。
10月10日午前4時半ごろ 八幡西区のビルオーナー宅の木製門扉に付け火。50センチ四方を焼いた。ビルは標章制度の対象地区内にあり、標章を掲げる店が数店入居している。
北九州市には警察庁の指示で今年4月から月に延べ900人の機動隊員が集中投入され、市民の警備に当たっている。
警察庁は7月には、未解決事件の山に業を煮やし、暴力団捜査に精通した捜査員をも北九州市に送り始めた。警視庁からは10人、静岡や鳥取、岐阜県警などからも捜査員が派遣され、2013年春までに200人を送り込み、暴力団捜査に当たらせるという。
が、警察庁がいかに歯がみしても、犯人逮捕には至っていない。福岡県警は何をしている、無能すぎると、市民の非難が集まっている。飲食店の中にはせっかく張った標章を外す動きも広がっている。警察が守ってもくれないのに、業者が暴力団対決の前面に出て血を流すのはご免という気持ちである。
北九州の北橋健治市長も事件が解決しないことにいらだち、「犯人検挙こそ最大の暴追運動だ」と福岡県警に苦言を呈した。
こうして地元の住民が次々血祭りにあげられる事件について、北九州市に本部を置く指定暴力団、工藤會の木村博幹事長は言下に関与を否定する。
「われわれが事件に組織的に関与したということはいっさいありません。そういう報告が執行部に上げられたこともない。万一うちの会員の関与が判明したのなら、即刻その者にそれ相応の償いをさせます。今までもそうしてきたはずです」
※週刊ポスト2012年11月9日号