何気ない会話がいつの間にか記録され、それが自分に不利な材料として使われる――。いま巷では、ICレコーダーで会話や物音を録音し、それを“武器”として使う「録音族」が急増している。もはや「口が滑った」では済まされなくなった実態をレポートする。
福岡市で中小企業を経営するA氏がうなだれる。
「私も確かにいいすぎたが、まさか音が残っているとは思わなかった。あんなことをされては、何を話すにも臆病になってしまう」
事の発端は、ある60代の社員が残業代の増額を要求してきたこと。普段からミスが多くて仕事が遅いのが残業の原因なのに――、つい腹が立ったA氏は、社長室に呼んで激しく叱責した。
「本来ならオレが損害賠償を要求するところだ!」
「嫌なら会社を辞めろ!」
しかしその社員は一枚上手だった。胸ポケットに忍ばせたICレコーダーで会話の一部始終を録音し、弁護士に相談。パワハラの“決定的証拠”を突きつけられたA氏は謝罪し、要求に応じることになった。 社労士の一人が語る。
「パワハラ・セクハラに悩む労働者を中心に、レコーダーで上司や社長の発言を録音してから相談に来るケースが確実に増えています。録音があれば言い逃れできないうえ、労働局の対応も断然早くなる。そのため、我々社労士が録音を勧めているという側面もあります」
「録音」は会社だけでなく、家庭でも行なわれている。「T.I.U.総合探偵社」の阿部泰尚代表が語る。
「浮気の証拠を掴む場合が多いですね。妻の浮気を疑った夫が、ICレコーダーを寝室のベッドに仕込んで行為の現場を押さえたケースがあります。自分で聞く勇気はないが、探偵が聞いて相手を特定してほしいという依頼でした。実際、会話もそこそこに行為に及んだ様子がハッキリ録音され、名前を呼び合っていたために相手が特定できました」
※週刊ポスト2012年11月9日号