何気ない会話がいつの間にか記録され、それが自分に不利な材料として使われる――。いま巷では、ICレコーダーで会話や物音を録音し、それを“武器”として使う「録音族」が急増している。もはや「口が滑った」では済まされなくなった実態はどうなっているのか。
都内在住の30代男性は、セクハラを認定され退職を余儀なくされた。
「若くて可愛い女性のバイトに一目惚れしてしまったんです。人懐っこいから、僕に好意があると勘違いして、遅番で2人きりになったような時には『肩でも揉んであげるよ』なんてスキンシップしていた。
そうしたらある日、“これまでのセクハラ発言を録音した”といってレコーダーを突きつけられたんです。もう真っ青ですよ。職場にはいられなくなり、辞表を出しました」
かように現代社会は「録音」の脅威にさらされている。本来は会議などに使われるICレコーダーを、トラブル回避など“自己防衛”のためだけでなく、相手を攻撃する材料として利用する人が急増しているからだ。
背景にあるのはICレコーダーの小型化・高性能化だ。家電ジャーナリストの安蔵靖志氏が解説する。
「ここ数年で飛躍的な進化を遂げ、今では1万円以下で音質や性能に全く問題のないレベルの機種が買えます。電池1~2本で連続30時間録音が可能なので、置きっぱなしで録音ができる。容量も増え、高音質でも丸5日分取り込める。
マイクの性能も向上し、仮にイベント会場で胸ポケットに入れていたとしても、かなりクリアに会話相手の声を録音できます。
再生機能も大幅に向上しており、声のみが収録された部分だけを再生することもできるので、聞き直しの手間もかかりません」
例えば、退社の際に録音状態で机に忍ばせておけば、翌朝、自分が不在の間の同僚の会話が丸々聞ける。また、車に設置しておけば、一見密室に見える車内の会話も筒抜けとなる。
「夫が出かける前に車の座席下などに入れておけば、会話内容はおろか録音した時間まですべてわかる。車は安全と思っている人は意外と多く、いわゆる“アリバイ”を崩すのにも使えます」(ディーラー関係者)
こうして24時間録音し続ける「録音族」が跋扈する。
※週刊ポスト2012年11月9日号