国際情報

大統領選に全身タトゥーの大学教授 異形の身体で社会批評か

 そういえば、日本でこれほどタトゥーが話題になることはかつてなかった。作家で五感生活研究所の山下柚実氏の論考である。

 * * *
 橋下大阪市政のもとで勃発した市職員のタトゥー問題。「職員の入れ墨が市民の方の目に触れることになれば、不安感や威圧感を与え、市の信用を失墜させる」として、職員の入れ墨調査、配置転換を実施して賛否を巻き起こしたことは記憶に新しいと思います。

 一方で、顔から全身までタトゥーを入れた大学教授がチェコの大統領選に参戦する、というニュースが飛び込んできました。

「異色候補として注目を集めるのがプラハの大学の演劇学科教授ウラジーミル・フランツ氏(53)。顔面を含む全身入れ墨で、宇宙人と見まがうほどの異形だが、『入れ墨は私が選んだ肌の色。人びとの寛容度が試される』と訴える」(『東京新聞』2012.10.26)

 チェコ共和国大統領選挙に出馬するために署名を集めているこの候補者は、大学の演劇学科教授。欧米ではタトゥーを「芸術」「アート」ととらえる人々が存在していることもたしかです。

 「五感」「身体」というテーマで取材を続けてきた私自身、「身体改造アーティスト」のルーカス・スピラ氏がフランスから来日した際、直接、インタビューをしたことがあります。

 ルーカス氏はタトゥーだけでなく、メスで身体に図柄を刻む「カッティング」や、皮膚の下に医療用ステンレスを埋め込む「インプラント」などの「身体改造」を、自分や他者に施してきたアーティスト。

「身体へのアートは一回性の試みです。肌に下書きをし、メスを入れ、カットする。絵画のように手直しはできません。その分、強度な緊張と集中が要求されます。身体は、それくらいパワフルなキャンバスなのです」と語ってくれました。

 ルーカス氏のパートナーのビビアン氏も、両腕の肌を埋め尽くすタトゥーを入れ、ボディピアスやカッティングをしていました。

「フランスだと『なぜ自分の身体を傷つけるのか』と、非難や批判の目で見られることが多い。排除される感覚を抱かされるのがヨーロッパ。ヨーロッパ人は、すぐに人をカテゴリーで括りたがるんです。身体に模様を描くのはマゾだとか。そうじゃない。私のカラダは私のもの、自由にしたい。自分のイメージに沿って、美しくアーティスティックに変化させていきたいだけなのです」

 彼らは言いました。キリスト教が浸透している社会では、身体を神からの授かりものとして受け取るから、身体を勝手に「改造」することは神を冒涜する行為としてタブー視されている、と。

 強いタブーが存在する。だからこそタトゥーを入れる行為が、体制批判や旧来的価値観を批評する行為として意味を持つ、ということにもなるのでしょう。

 顔・全身にタトゥーを入れた演劇学科教授が大統領選に立候補するということは、あえて、異形の身体を社会に示すことを「批評的」「芸術的」「演劇的」に意図しているのかもしれません。

 日本の社会といえば、大阪市の問題が起こる前までは、一部の職業では制限されてはいても、ヨーロッパのようにタトゥーを不道徳で反社会的な行為として激しく指弾されるということは少なかったようです。

 ファッション感覚で入れる人も多く、社会の方も積極的に奨励こそしないけれど絶対的にダメともせず、結果としてあいまい・ゆるやかに許容してきたのでしょう。

「私の出会った日本人は、黙って、大胆に改造します。痛みを真正面から、真面目に受け止める。刺青や血で文字を書くといった、長い文化的経験や独特の身体観が、背景にあるのではないかと感じます。その姿は私にとってとても魅力的です」とルーカス氏は語っていました。タトゥーは時として、その社会や文化のあり方を写す鏡にもなるのです。

関連記事

トピックス

折田楓氏(本人のinstagramより)
《バーキン、ヴィトンのバッグで話題》PR会社社長・折田楓氏(32)の「愛用のセットアップが品切れ」にメーカーが答えた「意外な回答」
NEWSポストセブン
東北楽天イーグルスを退団することを電撃発表し
《楽天退団・田中将大の移籍先を握る》沈黙の年上妻・里田まいの本心「数年前から東京に拠点」自身のブランドも立ち上げ
NEWSポストセブン
妻ではない女性とデートが目撃された岸部一徳
《ショートカット美女とお泊まり》岸部一徳「妻ではない女性」との関係を直撃 語っていた“達観した人生観”「年取れば男も女も皆同じ顔になる」
NEWSポストセブン
草なぎが主人公を演じる舞台『ヴェニスの商人』
《スクープ》草なぎ剛が認めた「19才のイケメン俳優」が電撃メンバー入り「CULENのNAKAMAの1人として参加」
女性セブン
再ブレイクを目指すいしだ壱成
《いしだ壱成・独占インタビュー》ダウンタウン・松本人志の“言葉”に涙を流して決意した「役者」での再起
NEWSポストセブン
ラフな格好の窪田正孝と水川あさみ(2024年11月中旬)
【紙袋を代わりに】水川あさみと窪田正孝 「結婚5年」でも「一緒に映画鑑賞」の心地いい距離感
NEWSポストセブン
名バイプレイヤーとして知られる岸部一徳(時事通信フォト)
《マンションの一室に消えて…》俳優・岸部一徳(77) 妻ではないショートカット女性と“腕組みワインデート”年下妻とは「10年以上の別居生活」
NEWSポストセブン
来春の進路に注目(写真/共同通信社)
悠仁さまの“東大進学”に反対する7000人超の署名を東大総長が“受け取り拒否” 東大は「署名運動について、承知しておりません」とコメント
週刊ポスト
司忍組長も傘下組織組員の「オレオレ詐欺」による使用者責任で訴訟を起こされている(時事通信フォト)
【山口組分裂抗争】神戸山口組・井上邦雄組長の「ボディガード」が電撃引退していた これで初期メンバー13人→3人へ
NEWSポストセブン
『岡田ゆい』名義で活動し脱税していた長嶋未久氏(Instagramより)
《あられもない姿で2億円荒稼ぎ》脱税で刑事告発された40歳女性コスプレイヤーは“過激配信のパイオニア” 大人向けグッズも使って連日配信
NEWSポストセブン
俳優の竹内涼真(左)の妹でタレントのたけうちほのか(右、どちらもHPより)
《竹内涼真の妹》たけうちほのか、バツイチ人気芸人との交際で激減していた「バラエティー出演」“彼氏トークNG”になった切実な理由
NEWSポストセブン
ご公務と日本赤十字社での仕事を両立されている愛子さま(2024年10月、東京・港区。撮影/JMPA)
愛子さまの新側近は外務省から出向した「国連とのパイプ役」 国連が皇室典範改正を勧告したタイミングで起用、不安解消のサポート役への期待
女性セブン