2004年にピークを迎え、今年は9月までの被害総額が97億円に上る振り込め詐欺。今も減らないこの重大犯罪を日本で最初に始めたのが、『悪魔のささやき「オレオレ、オレ」』(光文社刊)の著者・藤野明男さん(30才・仮名)だ。
「事件の被害に遭われたかたがたには本当に申し訳なく思っています。ぼくの経験を語ることで少しでも被害に遭うかたが減ればいいなと思っています」(藤野さん・以下同)
北関東の出身。手広く事業する両親に何不自由なく育てられた。単身上京してアパートでひとり暮らしをしながら高校に通った。親の監視のない中で、大好きなヒップホップのDJに憧れて、渋谷のセンター街に入り浸りの毎日。やがて違法カジノバーへ出入りするようになると、高校は中退した。
「渋谷に行けば、勉強よりも楽しいことがたくさんありました。周りにいた友達も、同じような連中で、誘われるまま、興味本位で刺激を求めてカジノバーに行き、やがて闇金融で督促の仕事をするようになりました。遊ぶ金も欲しかった。止めたり叱ったりする人もいなかったので、流れるままでした。弱い人間だったと思います」
たまたま闇金融で、ノルマが達成できない同僚が考えたのが、“振り込め詐欺”だった。
「オレ、オレ、オレだよ。無免許で交通事故起こしちゃって」
そう孫に成りすまして、債権者の年配の女性にかけた1本の電話から、世間を揺るがす詐欺事件は始まった。2003年、藤野さんが20才のときだった。
「自分たちの中では、“やばいな、振り込んできちゃったよ、あのおばあちゃん”という感覚はありましたけど、それが詐欺に当たるなんて夢にも思わなかった。罪の意識はなかった。勝手に振り込んできちゃったから仕方ないね、って。遊ぶ金も欲しかったし、その後はゲームをやっている感覚で手当たり次第に電話をかけまくりました」
逮捕されるまでの1年間で十数人のグループで、1億8000万円をだまし取った。藤野さんだけでも、約3000万円。その半分が“報酬”として藤野さんの手に渡った。
「友人たちと伊豆やハワイで豪遊しました。残りは、古着屋をやりたかったので、貯金をしていました。それが約1000万円。この貯金が残っていたので、のちに示談金に回せました」
2004年に逮捕された。捜査に当たった刑事から、だまされたことにショックを受け入院している高齢者がいること、藤野さんがかけた電話を、蒸発した息子からだと信じて「もういいんです」と被害届を出さなかった人もいると聞いた。そこで初めて自分たちのやったことの重大さを知った。
懲役3年の実刑判決を受け、刑務所に入った。振り込め詐欺の被害に遭わないためにはどうすればいいのか? と聞くと、
「“大阪のおばちゃん”にも電話をかけたことがあります。そのときに、“あんた誰なの?”、“うちの子とどういう関係なの?”と、細かいことまで追及されて慌てて電話を切ったことがあります。怪しいと思ったら徹底的に聞くことが大事です」
出所してから5年。今は家業を手伝う日々という。
※女性セブン2012年11月15日号