芸能

井筒監督 映画初出演チャンミンを「やり通した。たいしたもの」

チャンミンの演技を絶賛した井筒監督

 11日3日公開の映画『黄金を抱いて翔べ』。井筒和幸監督が、高村薫氏の同名小説を原作に、銀行から240億円の金塊を強奪しようとする6人の男たちを描いた。主演・妻夫木聡のほか、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン(東方神起)、西田敏行という、個性的な役者により、手に汗握りっぱなしのストーリーに仕上がっている。2年ぶりにメガホンをとった井筒監督に、作品の見どころ、そして制作秘話を聞いた。

――今作の金塊強奪作戦では、ドアをダイナマイトで爆破して金庫を開けて…というある意味では“アナログ”な犯罪を描いているが。

井筒:お金を盗むにしてもパソコンに暗号を入れたら億単位の金が口座に振り込まれる…これじゃ面白くもなんともないでしょ。これで犯罪が成立してしまうのは、“男の仕事”じゃないよ(笑い)。やっぱり“労働をする”っていうのは、生身の体を使って命懸けでやるということ。そうじゃなきゃ映画はつまらない。

――浅野さん演じるグループのリーダー・北川の「福沢諭吉だったら、やる気はない。金塊だから、やるのさ」というセリフが印象的だった。

井筒:そう。金は腐らないって北川が言うでしょ。でも、彼らは実際の価値がどれほどのものかは後回しです。それに金塊が本当にそこに眠ってるのかどうかもわからない。わからないからヤルんです、なかなか信じ合えない6人が金塊を盗むという犯罪をやりとげるようとすることによって、互いの信頼を得ようとしていく。

――原作は約20年前のものですが、それを現在の設定にした点での苦労は?

井筒:いろいろ調べたけれど、セキュリティーにしたって、20年前も今もたいして変わってないんですよ。いちばん変わったのはインターネットとかケータイくらいでしょ。でも、この作品にはケータイなんか使うような人はほとんど出てこない。この6人なんて、ケータイが面倒くさくてしようがないっていう連中ばかりだからね(笑い)。

――舞台が大阪だからこそ、この作品が成立したという面もあるのでは?

井筒:確かに、大阪という狭っ苦しい街だから成り立ったのかもしれないね。せせこましい世界に、濃い人間が生きてる感じがね。札束よりも金塊というのが納得できる何かが大阪の街にはある。東京の金融街ならそう簡単にはいかないでしょうから。

――監督もモデルとなった大阪の銀行を実際に下見したそうですが。

井筒:怪しまれたりはしなかったけど、何の御用事ですか?って聞かれてね。“友達と待ち合わせしてんねん”って言ってやったけど(笑い)。厳めしい空気感を見て回りましたよ。メガバンクの威厳っていうのが、この作品の6人の連中を奮い立たせる動機にもなってるんですよ。権威に挑戦してやろう、ひと泡吹かせてやろうっていう。犯罪だから悪いことは悪いんだけど、考えてみたら銀行の地下に眠っている金塊なんてのは、庶民がコツコツ貯めて預けてるお金じゃないし、血と汗の結晶じゃないですからね。そば屋さんとかクリーニング屋さんの売り上げとか、われわれ庶民のものじゃないわけでしょ。そういう権威者しか持てない金塊というものを頂戴してやろうというのが“男の野望”として面白いと思ったわけですよ。

――そういう男くささを表現するのは、若手の俳優には難しかったと思いますが、監督から見ていかがでしたか?

井筒:俳優さんは素直に理解してくれたと思いますよ、男くさい役を。6人とも入り組んだ暗い過去を持っているけれど、なんとか吹っ切りたいと思って生きてる人間ばっかり。そういう意味では、今の俳優なら誰でも挑戦したくなる役でしょ、みんな。だから、ああいう役やりたかったって嫉妬してる俳優さん、あまたいらっしゃるんじゃないかな。

――日本の映画初挑戦のチャンミンの演技はいかがでしたか?

井筒:現場で演技見るまでは、どんな演技をするんやろって不安だったのよ。正直言うと、演技のエの字もできないのかなと思っていたからね。切った貼ったで編集しないとダメと思ってたんだけど、でも、その苦労はまったくなかったね。

――監督の関西弁の指示を理解するのには苦労したそうですが。

井筒:そりゃ、わからへんやろ最初は。でも、こちらのニュアンスをとても深く理解してくれていた。彼の日本語力はスゴイからね。

――次第に監督の指示を理解できるようになっていった?

井筒:全然わかってたよ。ものすごくわかってた。なかなか要領よく豆腐をつかめない豆腐屋のシーンもあったけど、演技の意味をわかってる中でのことだから頑張れってね。何回もテイクを重ねたこともあったけど、音を上げずに最後までやり通したね。たいしたもんだよ。

――男くさい役を見事に演じていたと?

井筒:そうやね。彼の役は、爆弾工作員で、元国家スパイの裏の顔を持つという特に複雑な役だからね。そういう意味では、普段の彼の仕事とは真逆だから楽しみながらやってたんじゃないかな。

――撮影中にコンサートもあって、多忙ななかでの撮影だったそうですね。

井筒:コンサート行ってファンの前に立って歌って踊って、戻ってきて爆弾工作員役やって。また、コンサートやって、また今度は爆弾工作員役やるって、恐ろしいことやってるわ(笑い)。さすがプロのステージマンというか、心の入れ替えが器用なんやろうね。

――女装シーンも話題になりそうですが。

井筒:あれはファンサービスみたいなもの(笑い)。原作にもそういう設定はありますし、国家と組織から逃げるという役で身を隠さないといけないから、世を忍ぶ仮の姿という、まあ、正々堂々と生きられないかわいそうな役だから。でも彼は演じきったでしょ。

『黄金を抱いて翔べ』
過激派や犯罪相手の調達屋などをしてきた幸田(妻夫木)は、大学時代の友人・北川(浅野)から、住田銀行本店地下にある240億円相当の金塊強奪計画を持ちかけられる。北川がメンバーに選んだのは銀行システムエンジニアの野田(桐谷)、自称大学院留学生で国家スパイの裏の顔を持つモモ(チャンミン)。さらに、北川の弟・春樹(溝端)、元エレベーター技師のジイちゃん(西田)が仲間に加わり、6人の男たちの計画がスタートする。

関連キーワード

関連記事

トピックス

“激太り”していた水原一平被告(AFLO/backgrid)
《またしても出頭延期》水原一平被告、気になる“妻の居場所”  昨年8月には“まさかのツーショット”も…「子どもを持ち、小さな式を挙げたい」吐露していた思い
NEWSポストセブン
露出を増やしつつある沢尻エリカ(時事通信フォト)
《過激な作品において魅力的な存在》沢尻エリカ、“半裸写真”公開で見えた映像作品復帰への道筋
週刊ポスト
初めて万博を視察された愛子さま(2025年5月9日、撮影/JMPA)
《万博ご視察ファッション》愛子さま、雅子さまの“万博コーデ”を思わせるブルーグレーのパンツスタイル
NEWSポストセブン
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
尹錫悦前大統領(左)の夫人・金建希氏に贈賄疑惑(時事通信フォト)
旧統一教会幹部が韓国前大統領夫人に“高級ダイヤ贈賄”疑惑 教会が推進するカンボジア事業への支援が目的か 注目される韓国政界と教会との蜜月
週刊ポスト
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(左・時事通信社)
【東大前駅・無差別殺人未遂】「この辺りはみんなエリート。ご近所の親は大学教授、子供は旧帝大…」“教育虐待”訴える戸田佳孝容疑者(43)が育った“インテリ住宅街”
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン