日本人は眠れないとき、睡眠薬よりも酒を飲む割合が高いとされる。しかし、現在主流となっている睡眠薬は安全性も高く、正しい知識と医師の指導があれば、不眠の解消に大きな力となるはずだ。
ひと口に睡眠薬といっても、市販されているものと病院で処方されるものとでは、成分が違う。例えば代表的な市販睡眠薬「ドリエル」の主成分は、風邪薬などに使われている抗ヒスタミン薬。眠気を起こす副作用を利用するもので、一過性の不眠には有効だが、慢性的に使うと耐性ができ、かえって不眠症状がひどくなることもあるという。
「世界でも日本人ほど不眠で病院にこない国民はいません。寝酒や市販睡眠薬に頼るよりも、病院で医師の診断を受け、症状に合った睡眠薬を処方してもらう方がずっと安全です」(久留米大学医学部精神医学講座教授・内村直尚氏)
現在、病院で処方される睡眠薬の多くは「ベンゾジアゼピン(BZD)受容体作動薬」と呼ばれるもの。大脳辺縁系にある受容体と結合し、脳の興奮を静めることで眠りやすくする。
このタイプはさらに2つの種類に分けられる。ひとつは以前からある「BZD系」で、睡眠鎮静作用に関わる受容体と筋弛緩や抗不安に関連する受容体の両方に結合する。
「代表格は『ハルシオン』で、たしかによく効きますが、健忘や筋弛緩などの副作用が強い。最近では置いていないクリニックも増えてきています」(内村氏)
そこで現在、主流になっているのが、より新しい「非BZD系」の睡眠薬。睡眠鎮静作用の受容体にだけ結合するため、副作用が軽減されるメリットがある。近年よく処方される「マイスリー」「アモバン」「ルネスタ」はこのタイプの睡眠薬だ。
睡眠薬には効果が続く時間によって、「超短期時間型」「短期時間型」「中間型」「長時間型」の4つのタイプがある。寝つけない入眠障害には超短期型や短期型、夜中に何度も目が醒める中途覚醒には中間型や長時間型が有効。ただし、不眠症で受診する人は入眠障害を訴えることが多いため、超短期型の睡眠薬が処方されることが多い。「ルネスタ」は、半減期(薬の血中濃度が半減するまでの時間)が5時間と少し長く、中途覚醒にも効果があるという。
2010年には、これらとは効き方のメカニズムが異なる「ロゼレム」も発売された。体内時計の中核にある受容体に働きかけることで、睡眠と覚醒のリズムを整える「メラトニン受容体作動薬」と呼ばれるタイプだ。
「ロゼレムは副作用が少なく安全性がより高いのが特徴。とくに高齢者の場合、加齢によるメラトニンの減少で、昼夜の逆転が起きたり睡眠リズムが狂いやすいので、この薬は効果的です。ただし、効果が出るには最低でも1週間以上は飲み続ける必要があります」
選択肢も拡がり、安全性も高くなった睡眠薬。眠れずに寝酒に頼っているという人は、一度医師に相談してみてはいかがだろう。
※週刊ポスト2012年11月9日号