兵庫県尼崎市を拠点に発覚した連続変死事件。主犯と見られる角田美代子被告(64才)は警察の取り調べに完全黙秘を続けている。犯行は1980年代から始まったとされるが、その間20年以上も平然と暮らしており、脅えや恐怖心とは無縁だったようだ。
死者・行方不明者は少なくとも8人にのぼり、奪い取った金品は1億円以上。標的にした家族をとことんしゃぶりつくし、用済みとなれば躊躇なく命を絶つ。そして、次の獲物に向かう人間とは思えない罪悪感のなさこそが、今回の事件の最も不気味な点である。
今回の事件は特異なケースなのか、現代社会で必然的に生まれてきたものなのか。事実としてあるのは、犯行の手口こそ異なれど、何人もの殺人にかかわりながら平気な顔をしている女性犯罪者が近年連続して出現していることだ。
記憶に新しいのは、今年4月の一審判決で3人の殺人罪などで死刑を言い渡され、控訴中の首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗被告(37才)、そして現在公判が行われ、2件の強盗殺人罪などに問われている上田美由紀被告(38才)だ。
彼女たち女性凶悪犯に「嘘による支配」という共通点を見出すのは作家の岩井志麻子さんだ。
「木嶋被告は嘘の経歴や、ありもしない結婚の意思をちらつかせて相手を騙し、コントロールしていました。上田被告も関係をもった男性に対して、“3つ子を妊娠した”などと嘘をついて中絶費用や生活費を騙し取っていました。木嶋被告はおだてて、上田被告は脅して、と相手を支配する方法は違いますが、嘘が犯行のベースになっています」(岩井さん)
角田被告も、支配下の人間に自らの虚言を盲信させていたという。
「弘道会のトップと仲がええんや」
「(暴力団の)本部から人を呼ぶで」
そんな脅しを吹聴し続けるうち、腕っぷしの強い男たちも信じ込んで、頭が上がらないようになっていたという。
平気で嘘をついていた女性犯罪者としては、1998年7月、和歌山市園部地区の夏祭りで砒素入りカレーを食べた住民4人が死亡し、63人が入院した和歌山毒カレー事件の林真須美死刑囚(51才)を思い出す人も多い。
捜査の過程で林死刑囚が夫・健治元受刑者や知人らに砒素入りの料理をふるまい体調不良に陥らせ、多額の保険金を騙し取っていた疑惑が浮上。林死刑囚は疑惑の中心人物として逮捕前から名前があがり、報道が過熱した。しかし、林死刑囚は動揺を見せることもなく、自宅を取り囲む報道陣にホースで水をかけて薄笑いを浮かべてみせた。
林死刑囚の家族らへの取材を重ねたノンフィクション作家の高橋幸春さんが言う。
「逮捕前、彼女は報道陣に『砒素なんて見たことない』、『真犯人は他にいる』などとまくしたてていました。逮捕されると保険金詐欺は認めましたが、カレー事件についての警察や検察の取り調べには完全黙秘を貫いた。ところが一審で死刑判決が出ると、控訴審からは人が変わったように無罪を主張しました」
林死刑囚は2009年に最高裁で死刑が確定した。高橋さんは、「保険金」を騙し取るために始めた嘘が、林死刑囚を殺人へと結びつけていったと見ている。
「林死刑囚は金に対して異常な執着心がありました。両親が林死刑囚の結婚祝いにポンと3000万円をプレゼントするなど、金銭感覚がマヒする環境で育っていたんです。しかし、ギャンブル依存症の健治元受刑者はその貯金を使い果たし、母親が亡くなった後の保険金まで使い込んだ。
それで林死刑囚がものすごい剣幕で健治元受刑者を怒鳴りつけた。困った健治元受刑者は、お金を返す手段として自ら砒素をのみ、障がい者となることで保険金を受け取ることを承諾したと語っています。ここで保険会社にバレず、成功したがために、林死刑囚は味をしめ、次から次へと保険金詐欺にのめり込んでいったのではないでしょうか」(高橋さん)
無差別殺人となったカレー事件については、本人が容疑を否認し、その動機の真相は未だ明らかでない。だが、夏祭り当日、林死刑囚が保険金をかけた人物が砒素入りカレーを食べる予定だったといい、保険金目的であったと考えられている。
法政大学文学部の越智啓太教授(犯罪心理学)は、女性による連続殺人事件は、歴史的にも世界的にも「お金」を目的としたものが多いと言う。
「女性がお金目的に犯す殺人は、“黒い未亡人型”と呼ばれ、日本では昭和初期から増えてきました。大昔は金持ちの貴族の妻が夫を殺すパターンでしたが、戦後は身内や適当な男に保険金をかけて殺害するパターンに。角田被告や林死刑囚もこれにあてはまります」
※女性セブン2012年11月15日号