米紙ニューヨーク・タイムズが10月下旬、「温家宝中国首相の親族が約27億ドル(約2160億円)もの巨額な秘密資産をため込んでいた」などと報じたが、温首相はそれまでの「清廉」とか「国父」「涙もろい温おじいさん」というイメージが崩れかねず、窮地に陥っている。
温氏は弁護士を通じて「事実無根」などと異例の抗議を行なったほか、中国共産党指導部に「専門の調査機関を設置して、その結果を公表せよ」と求めるなど、ダーティイメージの払しょくに懸命だ。
同紙によると、すでに90歳になる温氏の母、楊志雲さんが5年前の2007年、中国の保険会社最大手の平安保険の株式を取得。その額は時価で1億2000万ドルにも上ったという。しかも、株式は楊さんの名前が分からないように会社名義で購入されており、楊さん以外の人物が仲介するなど複雑なルートを使った可能性が高い。
さらに、温氏の実弟の温家宏氏(70)は汚水処理や医療ゴミ処理の会社を経営しているが、政府から約3000万ドルもの契約を結んでいた。また家宏氏が経営する会社は2億ドルの資産を有するという。
このほかにも、温氏の妻の張培利さんは「ダイヤモンド女王」と呼ばれるほど貴金属関係の会社を手広く経営していることで有名。温氏の長男の温雲松氏も香港で資産運用会社を立ち上げ、1億ドルもの資金を運用。さらに、香港最大の財閥グループ「長江実業グループ」の総帥、李嘉誠会長とも親しく、かつて雲松氏が創設した企業を1000万ドルで売り渡したといわれる。
このような報道に対して、温首相は弁護士を通じて、「母が株式を不正に取得した事実はない」「家族や親族が不正な方法で財産を形成した事実はない」などとしたうえで、「法的措置も考えている」との声明を発表した。
これまで、党政府高官や親族が不正な方法で蓄財しているなどの報道はたびたびあったが、無視するのが慣例で、今回の温首相のように、公然と抗議を行なったのは極めて異例。
さらに、香港紙「明報」によると、温首相は党中央に対して、専門の調査機関の設置などを求め、その調査メンバーも法律や経済の専門家のほか、中国や海外のメディアのジャーナリストを入れるよう要求。その結果は包み隠さずにすべて公表させるべきだと主張しているという。
これが実現すれば、中国共産党政権では史上初めてで、閉鎖的な中国の法制度改革にもつながる可能性が高いが、北京の共産党筋は「温首相は来年春の全国人民代表大会(全人代)で引退することが決まっており、たんなるポーズといえよう。党大会前だけに、権力闘争による胡錦濤派つぶしの可能性もあり、異例の抗議や提案を行うことで、ダメージを少しでも和らげようとしているのではないか」と指摘している。