一流のプレーで観客を魅了するプロ野球選手が、ふとした瞬間に見せる意外な顔。結果を残しているのになぜか報われない、狙っているわけじゃないけど笑いを誘ってしまう……そんな不憫で「残念」な一面があるからこそ、ファンは選手を人間としても好きになるのだ。長いプロ野球の歴史に紡がれてきた、選手たちの秘話を公開する。
まずは終わったばかりの日本シリーズから、「残念」選手を紹介しよう。投手はどんなに乱調でも、味方が点を取ってくれれば勝ちがつく。反対に好投しても味方が打ってくれなければ、負け投手になる。投手は運に左右されるものだが、その運にしばらく見放され続けている投手がいる。
東京ドームで行なわれた第2戦に先発した日本ハムの武田勝は、1回に長野久義に先頭打者本塁打を浴びながらも、以降の巨人打線を抑え6回を投げて降板。だが自軍の援護はなく、この1点で敗戦投手となった。
まさか嫌がらせではないだろうが、武田はなぜか援護してもらえない。昨季には無援護での5連敗というなんと年ぶりの新記録を樹立。今年も5~6月は防御率1点台と好投して試合を作りながら、8回登板して1度も勝てなかった。自分では回避しようのない災難。気を紛らわせるためか、家に帰ると野球ゲームを開始し、「先発・武田勝」が勝つまでやり続けているという。
ノーヒットノーランまであと少しに迫りながら、それを3回フイにした残念な投手もいる。2002年8月26日のロッテ戦。西武・西口文也は、9回まで走者を四球の1人だけしか許していなかった。ところが9回2死から小坂誠にセンター前に運ばれ、ノーヒッターが消滅。2005年5月13日の交流戦で巨人に対した時は、6点のリードをもらって9回2死までスイスイ投げたものの、清水隆行に痛恨の一発を浴び、完封勝利まで逃してしまった。
この年は8月27日の楽天戦でも、西口は9回を終わっても1人の走者も許さない完全試合ペース。しかし無援護で0-0のまま延長に突入し、10回先頭の沖原佳典にライト前ヒットを打たれて記録達成の夢は消えた。
「オレってつくづく記録に縁がないのかねえ」試合は10回裏のサヨナラで、勝利にはありついた。現在は200勝まであと18と迫っているが、これで達成できずに引退してしまえば、またもや残念な記録が増えてしまう。
2度あることは……で思い出すのが、1973年の珍記録である。5月30日のロッテ戦、3-1とリードした8回から救援のマウンドに上がった南海・佐藤道郎は、9回に1点差まで追い上げられ、2走者を置いて代打・榊親一に逆転サヨナラ3ランを献上。翌6月1日の阪急戦でもリードした7回に登板。8回に追いつかれると、9回には福本豊にまたもサヨナラ弾を浴びた。
さらに翌日。さすがに登板はないとベンチ裏でタバコを吸っていたら、延長10回を迎えた場面で、野村克也監督から登板を命じられる。慌てて登板したが、11回裏に長池徳二にサヨナラ弾を被弾。この3試合連続のサヨナラ本塁打被弾は、プロ野球記録になってしまった。
※週刊ポスト2012年11月16日号