日本国内、しかも東京湾に浮かぶ島(中央防波堤埋立地)をめぐって、二つの自治体が壮絶な領有権争いを繰り広げている――週刊ポスト前号で報じた東京都大田区と江東区の「羽田沖領土紛争」を燃え上がらせたのは、今年2月に起きたある事件だった。
今年2月11日に行なわれたゲートブリッジの開通式には、前田武志・国土交通相(当時)はじめ、政府要人が多数参加した。山崎孝明・江東区長、松原忠義・大田区長も関係自治体のトップとして参列し、開通を祝うテープカットに臨んだ。
前田国交相を中心に、国会議員や区長らがずらりと並ぶ。ところが、江東区長が中央付近のポジションを得たのに対し、大田区長は一番端に立たされてしまった。埋立地の領有を諦めたはずの品川区長よりも冷遇された扱いだった。さらに、スピーチする機会を得たのも江東区長だけだった。
大田区議の松原秀典氏が無念そうに振り返る。
「あまりに目立たないから、議員の間で『区長はテープカットに参加できなかった』との噂まで流れました。区長には江東区長と並んで堂々と真ん中でテープカットしてほしかった。なぜなら、埋立地は大田区の土地であり、ゲートブリッジは両区にまたがっている橋なのですから」
開通式を境に、江東区は攻勢を強める。式から3日後には、江東区公式ホームページの質問コーナーに、こんな市民の声が載った。
〈中央防波堤は、江東区固有の「領土」である。大田区がふてぶてしく、自分の区の一部であるかのごとく主張をしているが、ゲートブリッジ開通で江東区本土とより便利に通行できるようになった。山崎区長は、テープカット式典に出席しているが、その場で、「中央防波堤は江東区のものである」と喧伝すべきであった。
せっかくのチャンスを無駄にしている。区長には、反省してほしい。江東区が実質的に、中央防波堤を支配することも既成事実化として必要だ。江東区の出張所や図書館など、公共施設をどんどん建設し、大田区に何も言わせないようにすべきだ。ずうずうしい大田区の主張を通してはならない〉
江東区はこの過激な意見をそのままHPに掲載したうえで、港湾臨海部対策担当がこう回答した。
〈このたびの東京ゲートブリッジの開通は、区民の皆様が当該埋立地をこれまで以上に身近に感じていただける良い契機になるものと認識しております。本区としては、引き続き、区民の皆様や区議会と一丸となり、毅然とした強い姿勢で、当該埋立地の本区への帰属実現に向けて、関係機関に対し働きかけていきます〉
※週刊ポスト2012年11月16日号