「iPad mini」を発表して世界的に話題を集めるアップルの快進撃が止まらない。だが、このまま成長を続けていくかといえば、大いに疑問である、と指摘するのは大前研一氏だ。以下は、大前氏の解説である。
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アップルは、今や“史上最強企業”となった。時価総額が8月に6235億ドル(約49兆円)を突破し、マイクロソフトが1999年に記録した6205億ドルを超えて史上最高を更新(10月26日時点では約5700億ドル)。今年7~9月期決算でも米IT大手の中で唯一、増収増益を記録した。
スマートフォン(高機能携帯電話)の新モデル「iPhone5」の快進撃に続き、10月23日にはタブレット端末「iPad」の小型化モデル「iPad mini」を発表して世界的に話題を集めた。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。
しかし、このままアップルが成長を続けていくかといえば、大いに疑問である。というか、私は、すでにピークを迎えつつあると見ている。なぜか?
そもそもアップルが急成長したのは、世界中で“通信革命”を起こしたからだ。つまり、インターネット初期の20年くらい前に流行った「いつでも、どこでも、誰とでも」つながって情報を入手・提供できる「ユビキタス」のネット環境を、PCではなくスマホのiPhoneで可能にし、さらにタブレット端末のiPadを開発してiPhoneに足りない機能を補ったのである。
だが、次のIT業界の主戦場はスマホでもタブレット端末でもなく、「リビングルーム」である。これは前から私が指摘してきたことだが、もともとジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツやソニーは、最終的にリビングルームを制する者がIT業界を制すると考えていた。これは今も変わっていないと思う。
ただし、リビングルームの定義は「自宅の居間」ではなく、「その人がいる場所(room in which he is living)」に変わった。つまり、iPhoneが登場して以降は、電車の中も、車の中も、カフェやファストフード店の中も、バスルームやトイレの中も、ネットがつながる場所がすべてリビングルームになったのである。
とはいえ、なおスマホに取り込めていないセグメントは、未だにリビングルームで漫然とテレビを見ている高齢者をはじめ、けっこう大量に残っている。その市場を奪い合う熾烈な競争が再び始まっているのだ。
そして今度のiPhone5は、高速データ通信規格「LTE」に対応するなど、これまで以上に世界中で多くのネットワークとWi-Fiにつながり、さらにはルーターとしてPC、タブレット端末、ゲーム機などをインターネットに接続させる「テザリング」機能も持っている。つまり、iPhone5の登場で、ユビキタス環境は一気に最終形に近づいたわけだ。
ただし、同様の機能は、Androidスマホも備えている。そうなると、今後のリビングルームをめぐる戦いでは、いわば“土管業者(通信事業者)”がLTEやWi-Fiなどの“太い土管(高速通信ネットワーク)”さえ整備してくれていれば、端末がアップル製品かどうかは関係なくなる。
台湾のHTCやASUS、中国のファーウェイ(華為技術)などが、iPhone5と同じような性能・品質のスマホをiPhone5より大幅に安い価格で提供したら、一気に流れが変わる可能性があるのだ。
※週刊ポスト2012年11月18日号