周辺国との間で領土を巡る緊張が高まっている。元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、領土を守るためには米国に頼るのではなく、自衛隊を増強しなければならないと指摘する。
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日本国民の多くは、中国が攻めてくれば日米安全保障条約で米国が日本の国土を守ってくれると信じている。9月に来日したパネッタ米国防長官は確かに「尖閣は日米安保の適用範囲内」と言ったが、一方で「相対する主権に関する紛争には、どちらの肩も持たない」とも述べた。どちらが本当なのか。
意外に思うかもしれないが、日米安保条約の条文を読む限りでは、日本が敵国から攻撃を受けたとき、自動的に米国が参戦して日本を守ってくれるという保証はない。米大統領が「日本を守る」と決心し、軍に出動命令を下さなければ、軍は行動できないのである。
しかも米大統領が軍に命令を出したとしても、その有効期限はわずか2か月である。それ以降、軍を動かすには米議会の同意が必要になる。私は米議会の同意を得るのは簡単ではないと思っている。なぜなら米議会には反日の議員がかなりいて、「反日法案」と言われるような日本いじめの法案が年中通っているからだ。
結論からいえば、日中が尖閣でぶつかったとき、日本を守ったほうが米国の利益になると判断すれば米国はそうするが、国益を損ねると予測すれば、日米安保は発動されない。それゆえ、日本はいざというときに、自前の軍事力だけで中国と対峙する覚悟と準備が必要だ。
日中の現在の軍事力を比較してみよう。中国人民解放軍は数の上では自衛隊の10倍の兵力を保有している。しかし戦車は海を渡れないし、歩兵も泳いで来られない。日本を軍事的に攻略するならば、必ず最後は陸上戦力を送り込まなくてはならないが、現在の中国の輸送能力では数万人規模の陸軍を同時に輸送することは無理だ。
中国が保有する強襲揚陸艦などをすべて運用したとしても、1度に輸送できる武装した兵員は3000人程度と推定している。これなら陸上自衛隊が迎撃することは十分可能だ。
そもそも上陸作戦を展開するには、海空戦力で日本を圧倒する必要がある。中国海軍の兵員数は海上自衛隊の約5倍の約26万人で、1000隻以上の艦艇を保有しているとされる。しかしほとんどが沿岸警備用の小艦艇で、洋上で作戦展開できる駆逐艦やフリゲート艦などの隻数は約200隻。これは日本の1.5倍ほどだ。しかも旧式艦がかなり多いので、現時点では海上自衛隊を上回る戦力ではない。
では空軍はどうかというと、兵員数は航空自衛隊の10倍近い約38万人。戦闘機は日本の約260機に対して1300機近く保有しているとされる。しかし、ほとんどが旧式機で、航空自衛隊のF2やF15と勝負できる戦闘機となるとJ10をはじめとする500機程度に絞られ、しかも整備状態が悪いので稼働率はがくんと落ちる。
さらには中国本土から沖縄まで約1000km。戦闘機が沖縄に来襲し、空対空戦闘をして本土に戻るのは不可能な距離だ。戦闘機は5分間の空対空戦闘で通常の飛行の約1時間分の燃料を食う。帰りの燃料がなくなってしまうのだ。
航空母艦があれば状況は変わるが、空母は一定期間ドックで整備しなければ運用できない特殊な艦種で、3隻以上の同型艦を保有しないと常時ローテーションを維持できないとされている。中国が保有しているのは“ワリヤーグ”1隻のみ。しかも装備が古く訓練をしていないから実戦で使える状況にはほど遠い。
このように現時点で中国は日本を凌駕するほどの軍事力を保有していないことが分かる。だが周知の通り、中国は軍備拡大に躍起になっている。いざというときのために自衛隊の配備を整えておく必要がある。
中国側の出方にもよるが、私の試案はこうだ。まず3個師団(約3万人)規模の陸上自衛隊を尖閣諸島に近い宮古島や石垣島に常駐させ、さらに護衛艦を5~6隻、戦闘機を3個飛行隊、60機程度集結させておく。沖縄本島からもF15戦闘機を飛ばし、常時、機動展開訓練を行なう。もちろん常駐にともなう港湾や飛行場の迅速な整備は不可欠である。
その上で総理大臣が「中国が尖閣に武力で侵攻するなら、日本は自衛隊を使って絶対に阻止する」と世界に向かって宣言することだ。そこまで日本が覚悟を決めれば中国は絶対に攻めて来られない。利益より損失のほうが大きいことが分かるからだ。
※SAPIO2012年11月号