韓国や中国勢の猛追を受け、経済で苦戦を強いられる日本。円高や高齢化だけが原因ではない。働き手のモチベーションは成長期と比べてどうなのか。経済大国ニッポンを築いた団塊世代を描き続けてきた漫画家、弘兼憲史氏が現代のサラリーマンを激励する。
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私の幼少期には、食べ物がなく、お腹を満たすために蜂の巣を叩き落として蜂の子を食べたり、美味しくもない野草を野原で摘んで囓ったりした。今よりもいい生活をしたいという欲求があり、ハングリーさがあった。
だが今の40代より下の世代は、生まれた時からモノが世の中に溢れ、何一つ不自由なく暮らしてきた。それが果敢に挑戦しない原因のひとつだと思う。
結果、若いサラリーマンの間には「この程度働いて、そこそこ幸せであればいいよね」という空気が蔓延している気がしてならない。泥臭さや努力することを格好悪いとする向きもある。
しかし、すぐ隣に目を向ければ状況は一変する。
私はマンガを描くために、中国や韓国などアジアの労働市場をよく取材するが、中国人は大変ハングリーだ。大学生の勉学に対する熱意は日本の学生の比ではない。
また韓国は国内市場が小さいため、最初から世界を相手に商売しようと戦略を立ててきた。韓国人は、国際人にならなければいい仕事に就けないため、留学してスキルを上げようと必死だ。
業績好調のサムスンを見てもそうだ。新入社員にはTOEIC900点以上を義務づけている。米国ハーバード大学でも、以前は東洋人留学生と言えば日本人だったが、今は韓国人と中国人が多数を占めている。
サラリーマンが変わらなくても日本企業は大きく変わった。パナソニックの新卒社員の海外採用比率は7割を超えている。優秀な人材を集めたい企業にとって、国籍、民族は関係ない。嫌でもハングリーな人たちと競争しなくてはいけない時代なのだ。
団塊世代ががむしゃらに働き、出世を競い、時に同僚が素晴らしい仕事をすれば悔しがり、それをバネに奮起したように、今のサラリーマンにも「格好悪い熱意」を持って欲しい。コツコツ努力して、泥臭いこともしてそれが格好悪くてもいいじゃないか。格好つけて落ちぶれていくのなら、ぶざまでいいから前へ進もう。
もし、「ハングリーになれ」という言葉がしっくりこないならば、こう考えて欲しい。3.11以降、多くの日本人が大地震に備えて水や食糧を備蓄するようになった。同じように万が一、倒産、リストラという“大地震”が襲ってきても大丈夫なようにスキルを“備蓄”するという発想で働くのだ。
グローバルな社会に生きている以上、相手にすべきは海外市場だ。特に成長著しい東南アジアやインド、南米やアフリカといった新興国だ。そこで、どんな勝負をするか。今後、サラリーマンには人生の半分を新興国で過ごす覚悟が必要になるだろう。
「お前は日本で漫画家という好きな仕事をしているからそんなことが言えるのだ」と批判されるかもしれないが、私のような者でも国際化への対応はやはり必要なのだ。
私のマンガづくりの基本は、「情報50%、エンターテイメント50%」だ。『島耕作』シリーズは、ビジネスを舞台にしているので、現代社会の流れを把握していなければならない。アメリカや中国など、海外ビジネスの現場取材も欠かさず、情報収集に努めている。仕事に対する私なりのプロ意識だ。
まずは世界を知ることだ。恐れずどんどん世界へ出て行って欲しい。
※SAPIO2012年11月号