彦根工場創立50周年モデル『ラムダッシュ』を手にする杉原さん
浮世絵、伊万里や九谷などの陶磁器、日本刀、根付など、海外で高く評価されている日本の伝統文化・伝統工芸は数多い。しかしそうした評価がありながら、事業面や後継者問題などで、一部ながら失われて行く技術があることも現実である。行政の補助金などがある一方で、技術を後世に残すためには、保護的な側面だけでは解決しない問題もあるだろう。
2011年8月に、新宿パークタワー リビングデザインセンターOZONEにオープンしたmonovaは、「日本のモノづくりの総合ショールーム」として全国の伝統工芸品を製造する企業の東京のPR拠点という役割を果たしている。こうした活動をしているmonovaのプロデューサーである杉原広宣さんに、日本の伝統工芸の“今”や“そこでmonovaの果たす役割”について話を聞いた。
「今は海外など、手を遠くしていけば、安く、簡単にモノができてしまう時代です。それを否定するつもりはないけれど、伝統工芸という世界に誇れるものが多い中で、身近に知ってもらったり、使ってもらったりすることは、必要かと思っています。
monovaは現在30ほどの地域・企業との取引きがあって、一般の消費者の方からはショップとして、企業にとっては流通関係者やメディアに広く知ってもらう、東京のPR拠点や常設展示場として活用してもらっています。いずれも地域を代表する企業ですが、東京で店舗を構えるにはハードルも多い。そこまでの足がかりとしてmonovaを活用し、いずれここを卒業して、東京にも根を張ってもらいたいですね」(杉原さん・以下「 」内同)
店内には漆や蒔絵を施されたiPhoneカバー(写真・杉原さんの左横上段)やモダンなデザインの食器類など、現代の暮らしの中でこそ使いたいアイテムが多く並ぶ。
「伝統工芸品ではありますが、“棚に飾っておくもの”ではなく、機能やデザインなど現在進行形で“使えるモノ”を意識しています。monovaのあるリビングデザインセンターは、積極的に勉強したい人や感度の高い人が集まる場所でもあるので、そうした人に“ゆったり見てもらう・知ってもらう場”という感じです。
また作り手である企業にとっても、流通関係者と商業的に繋がる際に、ある程度の生産数を確保できるものでないと、ビジネスとして成立しません。芸術的な価値を追求したものというよりも、技術とビジネスを両立するアイテムが中心ですね」
そうした中で販売ではなく、期間限定でパナソニックの彦根工場創立50周年モデルの『ラムダッシュ』が展示されていた。彦根の伝統工芸として有名なのは仏壇だが、その彦根仏壇の伝統技術のひとつ錺(かざり)金具で装飾された一点ものだ。
日本刀に学んだ鍛造製法を駆使するなどの技術で作られている『5枚刃ラムダッシュ』。肌に直接触れるヘッド部分へのこだわりは特に強く、1000分の1mm単位で調整するのは微細加工の職人で、大量生産されているイメージに反して“匠の技”の世界だという。
「生産量や機能性・コストといったことへの追求に差はあっても、大手企業も伝統工芸もモノ作りへのこだわり、理念は同じだと思います。多くの企業が生産拠点を海外に移す中で、日本でしか作れない技術や手で作るクオリティといった面では、やはり国内で生産されるモノの方が上ということはあるでしょうね。
こういったパナソニックさんとのコラボレーションなど、大手企業と伝統工芸とがお互いのこだわりで融合できることは多いと考えていますし、そうした取り組みを通じて伝統工芸や技術を知ってもらう機会が増え、また使ってもらえる機会が増やせればと。
いいモノを買おうと思えば、日本の誇る優れた技術のものが買えます。少し高いかもしれないけど、手が出ないほど高いわけじゃないし、長く使えるモノなので結果として、“高い買い物じゃない”ということが多いと思います。そうした価値があるものをこそ選んでもらう機会を作って、多くの技術や伝統工芸が続いて行くためのお手伝いができれば嬉しいですね」