日本人は温泉が大好き。これから寒くなり、ますます温泉が恋しくなる昨今だが、温泉には脳科学的にどんな影響があるのか――『ホンマでっか!?TV』でお馴染みの脳科学者・澤口俊之氏が脳科学の視点で分析する。以下は澤口氏の解説だ。
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温泉の効用に関係するであろう、いくつかの原著論文を見つけることができました。結論からいうと、「硫黄泉」と「ラジウム温泉」は、実際に効用があるとみなせると思います。
「硫黄泉」で有名な温泉の付近は、硫黄のにおいが漂っていますが、硫黄そのものは無臭なので、このにおいは硫黄が溶けることで発生する気体、つまり「硫化水素」のにおいです。
硫化水素はおならのような異臭を持ち(ちなみにおならにも混ざっています)、多量に吸入すると命にかかわるほど危険です。ところが、硫化水素は、実は体の中で、特に脳でも作られているのです。「脳内ホルモン」の中には気体が含まれており、その「気体脳内ホルモン」の代表が硫化水素なのです(他の気体脳内ホルモンは、一酸化窒素と一酸化炭素)。
硫化水素が持つ効果は、タダモノではありません。適度な硫化水素を吸うだけで記憶力が高まる可能性があり、さらに細胞死を防ぐ効果もあります。
そのため、脳内の細胞死に関係する脳障害(特にパーキンソン病や認知症)や、一部の脳梗塞の予防にも効果が望めそうです。また、抗酸化作用と抗炎症効果を持っているので、傷を早く治したり、老化を遅らせたりもできそうです。その他、リウマチ改善や美肌効果もあるといえます。これらの理由から、草津温泉のような「硫黄系温泉」には、「効用」があると推定できるわけです。
さて次は、「ラジウム温泉」ですが、その名のとおりラジウムを含む温泉で、ガンマ線という放射線が出ます。放射線というと、「効用どころか害では?」という疑問が出てくるかもしれませんが、ラジウム温泉の放射線量は微量で、普通の土地から出ている放射線量(自然放射線ないし背景放射線)の数倍から数百倍程度ですから、健康被害の心配はいりません。
人間は、がんなどの遺伝子損傷による疾病に対抗するため「遺伝子修復力」を持っていますが、この修復力は適度な放射線被曝で高まるというデータがあります。また、「遺伝子の傷」は、がんのみならずさまざまな疾病(脳機能障害の一部を含む)に関係しているので、極論ですが、遺伝子修復力を高めるラジウム温泉は「万病に効く」といってもよいかもしれません。
ただし、前述したように、温泉に関しては原著論文がほとんどないので、この話はあくまで「仮説」です。まぁ、温泉につかっていたら、どうでもよくなるかもしれませんが。
※女性セブン2012年11月22日号