福祉、環境、健康、通信、農業――。本業以外でこれら幅広い事業を行っている会社はどこかと問われて、大和ハウス工業と即答できる人は少ないのではないか。
「ダイワハウチュ」のテレビCMが茶の間に浸透し、住宅メーカーとしての認知度は高い同社だが、実は全体の売り上げに占める個人住宅の比率はわずか2割程度しかなく、ホテル、介護施設、商業施設など開発物件は多岐にわたる。
たとえば傘下の「スポーツクラブNAS」では、女性向けの直営エステを併設したり、高齢者も集えるようにと昭和の町並みを再現した「NAS元気横丁」(西日暮里のみ)をオープンさせたりと、従来のフィットネスクラブ業界の常識にとらわれない斬新なアイデアで好評を博している。
未来に夢を抱く事業としては、介護向けロボットスーツやリチウムイオン電池で走る電気自動車事業にまで参画。ここまで来ると、もはや何の会社かさっぱり分からない。過去に会長の樋口武男氏がトヨタ自動車元社長の奥田碩氏から「大和ハウスは何屋さんを目指しているのですか?」と尋ねられたそうだが、それも頷ける。
樋口会長は冒頭の新規事業5分野の頭文字を取って「ふ・か・け・つ・の(不可欠の)」と造語にした張本人。「選択と集中」が叫ばれて久しいご時世に、なぜここまで総花的に事業の多角化を急ぐのか。経済誌『月刊BOSS』主幹の関慎夫氏はいう。
「本業の住宅事業は、とにかく自分たちのシェアを高めようとモーレツに攻勢をかけていますが、いかんせん国内市場のパイ全体が大きくならない。そこで、他分野のM&A(企業の合併・買収)を繰り返し、グループの規模を拡大させてきたのです。8月にゼネコンのフジタを買収したのも、国内よりも東南アジアを中心とした成長著しい海外展開で売上高を伸ばそうとしている証拠です」
現在、大和ハウスの売上高は約1兆8500億円(2012年3月期)。次期計画は1兆9700億円と2兆円の大台が見えてきたが、同社にとってはそれも通過点に過ぎない。
「創業者の故・石橋信夫氏は樋口会長に、『創業100周年(2055年)に売上高10兆円を達成して欲しい』と夢を託しました。10兆円に到達するには、種を蒔いたそれぞれの新事業が1兆円規模にまで成長しないと難しいと思います。しかし、いまどき年間で1000億円ずつ売り上げを伸ばしていこうなんて強気な企業がない中、大和ハウスは創業者の遺志を継ぐべく目標を大きく立て、実際にその通りになっている。この躍進ぶりを見る限り、10兆円はまったくの夢物語ではありません」(前出・関氏)
現在74歳の樋口氏は、「不可欠の」のキーワードに「明日(あ=安全・安心、す=スピード)」を加えた。いまなお現役の実力派会長として、スピードを上げながら全国の営業所を飛び回る日々を送っている。
樋口氏は以前、『週刊ポスト』のインタビューにてこんなことを話していた。
「さすがに後期高齢者といわれる年代になって、50代のころとは疲労の回復度合いが違います。理想は75歳あたりで相談役に退きたいのですが、それまでにオーナーや私の理念を継承してくれる会長と、50代前後の若い社長を選ばなければなりませんね」
創業者の願いをつなぐ攻めの“たすきリレー”は、ひたすら弱気で守りの経営に終始する日本企業にとって、大きな指針となるはずだ。