最近の和ブームで日本の祭りが息を吹き返しつつある。商売繁盛を願う酉の市について、作家で五感生活研究所の山下柚実氏が分析する。
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おかめに米俵に七福神、宝船に千両箱。華やかな飾りがてんこ盛りの熊手。浅草・鷲神社の境内に、天井へ向かって何段も何段もディスプレイされた「熊手の迷路」が出現します。
熊手を売る店の数は、なんと100軒以上! 実にフォトジェニック。各テレビ局がこぞって中継したくなるのも、なるほどうなずけます。
今年もとりのいち、通称「おとりさま」がやってきました。一年の無事を感謝し、来年の幸と商売繁盛を願う、江戸時代から続く伝統の年中行事。「熊手で福を掻き込もう」「酉で福をトリこもう」と縁起をかつぐ日。今年は、11月8日が一の酉、20日が二の酉にあたります。
「人並に押されてくるや酉の市」
高浜虚子の句にもあるように、商売繁盛を祈って縁起物の熊手を買い求める人で境内はごった返します。縁起ものの熊手は、商売が拡大するにつれて、だんだんに大きなものへと買い換えていくのがお定まり。大きな熊手のお値段は交渉で。商談がまとまったり、ご祝儀が出ると、「ヨー、パパパンッ」と、手締めが響き渡る。そのキリッとした音が実に気持ちいい。
一時期は「縁起をかつぐ」こうした年中行事に人々の関心が向かわなくなった時代がありました。異国の文化ばかりを追いかけて、「年中行事なんて古くさい」と、日本人の興味が別の方向へ向いてしまった時代も。
しかし、最近は和ブーム。日本の伝統文化を見直す気運も高まり、各地の祭りが息を吹き返しています。特に庶民の縁起担ぎ・酉の市は朝からテレビで現場中継され、我も我もと熊手を買う人が押し寄せて、熱気ムンムン。商売繁盛を祈る人々の姿の背後に、社会の変化も見てとれるのかもしれません。
日本を代表する大企業が巨大な赤字にあえぎ、リストラの嵐が吹き荒れる昨今。いつ自分の会社がつぶれるか、クビになるかと、不安を抱えて生きるよりは、いっそのこと、ネット通販でささやかな商売を始めよう。小さな商いでいいから、店を持とう。好きなことを商売にして生きていく道を探ろう。そんな気分がじわりじわりと浸透しています。
恋愛成就を祈ってパワースポットに押しかけるのもいいけれど、明日への希望を託して「商いのパワースポット」へと足を運んでみるのも、オツなのかも。
11月20日は「二の酉」です。浅草・鷲神社の他にも、新宿の花園神社、足立区・大鷲神社、目黒区・大鳥神社、大田区・大森鷲神社 、横浜市・大鷲神社、名古屋では大須七寺の酉の市などなど、各地で開催されます。