味の素から8月末に発売された『アミノバイタル ゴールド』が売れている。今夏のロンドン五輪で日本選手団だけに独占供給されたサプリメントだ。筋肉疲労をすぐさま回復させるというサプリは、スポーツに打ち込む人だけではなく、登山やウォーキングなどを楽しむ中高年層から絶大な支持を受けた。
『アミノバイタル』の誕生は1995年に遡る。バリン、ロイシン、イソロイシンなどのアミノ酸が運動後に発生する筋肉痛や筋肉疲労を軽減するということで、主にアスリートやスポーツ愛好者から愛用されてきた。
2003年からは味の素がJOC(日本オリンピック委員会)の選手強化支援「ビクトリープロジェクト」の栄養サポートパートナーになって以来、アスリートらに製品を提供し続けてきた。
製品の誕生から15年以上が経過し、新たな製品の開発を考え始めた矢先の2010年秋、JOCの幹部と味の素の天羽賢次(スポーツニュートリション部長・52)の間でこんな会話が交わされた。場所は、味の素が2009年にネーミングライツを獲得したナショナルトレーニングセンター(トレセン)だ。
幹部:「『アミノバイタル』は、ロシアや韓国、アメリカの選手も使い始めている。オリンピックのために、日本選手団だけのものがつくれないか?」
天羽:「ネタはありますし、できると思います」
幹部:「ただし、海外勢には渡らないようにしてほしいんだ」
もともとアメリカ人選手はプロテインを服用するケースが多かった。だが、プロテインは分解されるとアミノ酸になる。はじめからアミノ酸を摂取する方が効率的だった。アメリカがそれに気付いた。JOCとしても気が気でなかったのだ。
開発は急ピッチで進んだ。五輪開幕まで残された時間はわずかだった。
「『アミノバイタル』に使われる主なアミノ酸はバリン、ロイシン、イソロイシン。配合比率は1・2・1が定石。ところが最新の研究では、このうちロイシンの配合を増やせば、異なる効果が出てくるのではないかと考えられていました」
結果を先にいえば、配合比率は1・4・1に変更された。活字にすればそれだけだ。だが、そこに至るまで川崎にある研究所の約10名の専任スタッフが数百通りに及ぶ配合を試み、すべて動物による検証を繰り返しながら、より効果を望める配合を目指した。
地味で地道で、「身の丈知らずの投資」というほどコストをかけた作業。1・4・1の配合に決まったのは2011年の秋。五輪開幕まで1年を切っていた。平行して筑波大学体育専門学群のアスリートでヒト対象試験が行なわれた。その結果は驚くべきものだった。
筋肉というのは30歳をピークに年齢の経過とともに少なくなる。ところが、新たなアミノ酸を採り入れることで、たとえ運動をしない人でも筋肉の劣えを抑えるだけでなく、強くなることもわかってきた。この結果を得て、『アミノバイタル ゴールド』の生産を開始。7月にオリンピック日本選手団だけに無償で提供されたのだ。
※週刊ポスト2012年11月16日号