いつも立ち寄るコンビニに漂う温かな香りに、買うつもりはなかったのについ店員に声をかける。いまやすっかり身近な存在となったコンビニのおでん。実際、どのくらい売れているのだろうか。おでん研究家の新井由己氏はこう語る。
「このシーズンになると、よく売れる店舗では、一日に1000個のおでんを売り上げるといわれます。少ないところでも500個程度は売れるといわれますから、単価が100円としたら、売れる店で一日10万円を売り上げます。そのうち5割が利益といわれていますから、5万円が利益ということです。従って、各店舗のオーナーもおでんに力を入れています」
ちなみにセブン-イレブンでは、年間2億7700万個(2011年度)のおでんだねを売り上げるという。そのコンビニおでんを私たちが全国どこでもおいしく味わえる背景には、知られざる努力、創意工夫がある。
例えば、あの鍋いっぱいのつゆ。
「出汁は濃縮したものをパックにつめ、それを各店舗に配送して、お湯で稀釈して使います。具材は具材ごとにパック詰めしてあり、必要に応じて各店舗で発注し、それを店舗で仕込みます。がんもやさつま揚げなどの揚げ物は、そのままだと出汁に油が浮いてきたり濁ったりするので、油抜き処理をします」(スリーエフデイリー商品部・高尾尚寛氏)
さらに調味料に浸る形で届いたたねは、出汁の味を損ねないよう水洗いしてから鍋のなかへ。こうした小さな工夫の積み重ねが、味に影響するそうだ。さらに、鍋のなかのたねの並べ方にも工夫がある。
「大根と餅入り巾着を並べると、大根の成分で餅が溶けてしまうので離す。ごぼう巻きと白滝も、ごぼうの成分で白滝が変色しないように離しています」(サークルKサンクス商品本部デイリーフーズ部マーチャンダイザー・正田徳司氏)
また、最近ではセルフ方式ではなく、店員がおでんをよそってくれる店も多い。「うちでは店員がよそうのが通例です。『おでんいかがですか』とお声がけして会話ができるし、おすすめもできる。お客様との対話ができる商品だと考えています」(セブン&アイ・ホールディングス広報センター・福田愛氏)
つゆの色が薄い「関西風」なのも、濃い「関東風」よりも、お客が具材をよく見て選べるようにという工夫からだという。また、薄味はおでんの香りを店内に広げないため。人の少ないときには、鍋のフタを閉めているというコンビニもあった。
※週刊ポスト2012年11月16日号