それは小沢一郎氏の再起動予告だった。
小沢氏は11月5日の記者会見で、「第3極に話し合いを呼びかけるか」と問われると、「今は自分たちの選挙準備で忙しいが……」と前置きした上で、珍しく積極的な言葉を付け加えた。
「それが一段落して、いろんな方がお話をそろそろするかという気分になれば、したいと思う」
なぜかこの発言について、新聞・テレビは報じなかった。だが、会見を聞いていた「国民の生活が第一」の議員は、11月12日に東京高裁で行なわれる陸山会事件の控訴審判決を意識した言葉だと確信した。
「小沢代表は控訴棄却判決、つまり無罪確定を確信している。これまでは誰かと会談すれば、その相手が“刑事被告人と組むのか”と批判されて困るのではないかという配慮があったと思う。が、晴れて完全無罪を勝ち取れば、維新の会や減税日本をはじめ第3極政党と協議をするのに障害はなくなる。『そろそろ時期だ』というのは、判決後には話し合いの環境が整うと考えているからでしょう」
この無罪判決は小沢氏に「刑事被告人」のレッテルを貼ることで政治活動を制約してきた民主党や自民党が恐れている事態でもある。
民主党は菅内閣以来、被告となった小沢氏を党員資格停止処分にして代表選出馬の道を塞ぎ、野田内閣の政権幹部たちは、支持率が下がると「党内のゴタゴタが原因」と消費増税に反対を唱える小沢氏に責任転嫁し、消費税造反組議員を処分して離党に追いやった。
その小沢氏離党を待っていたように自民党と公明党は民主党との3党合意で消費増税法を成立させ、小沢氏が政権から離れて以後、民自公による増税談合政治がなし崩し的に進んだ。それを根回ししたのが霞が関、財務省であり、大メディアもこぞって野田首相に「小沢切り」を煽った。
特に岡田克也・副総理はじめ民主党執行部は「小沢氏の強制起訴」を理由に党員資格停止にしただけに、無罪判決なら処分が間違っていたことがはっきりする。そのため、民主党内では11月初めから「無罪判決の衝撃」をいかにして打ち消すかという“ダメージコントロール作戦”が飛び交った。
「新聞は『無罪判決と政治責任は別』という論調で足並みを揃えるようだが、『控訴棄却、無罪確定へ』という報道を薄めるにはそれでは不十分だ。官邸は判決当日に、法務省がやりたがっている麻原彰晃の死刑執行をぶつけるのではないか」(野田グループ若手議員)
そんな情報や、「12日に野田首相と安倍晋三・自民党総裁が12月解散・総選挙を具体的に話し合う」という解散合意説まで流れていたほどだから、官邸や執行部がいかに“判決隠し”に腐心していたかが窺える。
※週刊ポスト2012年11月23日号