橋下徹・大阪市長が目指す大阪都構想では、大阪市地域24区が大規模に合併・再編される。橋下市長の狙いは、現在の大阪府と大阪市の二重行政を撤廃し、無駄な行政コストを省くことにある。大阪市の24区は約30万人単位の「特別区」に再編され、住民に密着した行政サービスは「特別区」が、道路や災害対策、大規模公共工事などは「大阪都」が管轄する。
そこで、この11月5日に開かれた区長会議では、特別区に再編する区割り案として、5区案を2パターンと7区案を2パターンの計4案が提案され、正式決定するはずだった。
ところが、会議での議論は紛糾し、決定は先送りになった。何が起きたのか。
「24区は経済力も文化・歴史もまったく違う。4案の決定でも二転三転したほど。さらに紛糾するのは間違いない」(市政担当記者)
税収が少なく歳出の多い区と統合されると、財政が悪化する。再編議論が紛糾したのはそのためだ。立命館大学法学部(行政学)の村上弘教授はこういう。
「現在の24区は行政区で自治体ではないので、区によって住民税や保険料に差はありませんが、24区が特別区に再編されて大阪都が実現した後は、特別区によって住民税や保険料が変わる可能性があります。財政が厳しい区が含まれる特別区では、それまでの税金よりも高くなるかもしれません」
一人あたり税収トップの中央区に住む50代の自営業男性は言葉を濁しながらも、「税収の悪い区と合併して健康保険料が上がるのはかなわんな。別の案にしてもらえんか?」と頭を抱えた。また、高級住宅地に自宅がある50代会社員男性は「一緒になった区に引きずられて、地価が下がったりすると困る」という。
逆にいえば、どこの区も税収が多く、地価も高い人気の区と一緒になりたいということになる。
大阪を代表する繁華街・ミナミを抱える中央区や浪速区、同じく繁華街のキタがあり、一人あたり税収が中央区に次ぐ2位の北区、さらに地価が24区で最も高く、国立・私立の有名校が集まる文教地区の天王寺区などはラブコールの嵐。
また、靱(うつぼ)公園や京セラドームに加え、若者で賑わう堀江地区などのおかげで過去5年間で人口が1万人増えた西区や、大阪市中央体育館があり、海遊館など湾岸周辺施設も多い港区、年間1000万人が訪れるテーマパークUSJのある此花区も、合併すれば税収が増えるとして人気だという。
橋下市長が国政に目を向ける間に、銭カネにシビアなお膝元の住民の間には、一触即発の空気が漂いはじめた。
※週刊ポスト2012年11月23日号