消費税率5%引き上げで得られる税収は約13.5兆円だが、官僚は早くも利権拡大に走り回っている。ジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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霞が関は焼け太る一方、野田政権に見切りをつけ、自民党政権へのシフトを強める。長年、政権をともにしてきた自民党のほうが蟻塚をつくりやすいからである。
財務省は自民党総裁選中から、安倍政権時代に首相秘書官を務めた田中一穂・主税局長が安倍氏にぴったり張りつき、安倍執行部の実力者である菅義偉・幹事長代行や甘利明・政調会長のもとにも連日のように各省幹部が出向いて“新政権の政策”の情報収集に動いている。元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授はこう見る。
「安倍さんは総裁選で『デフレ脱却しなければ消費税を上げるのに反対』と表明したし、周囲には『増税より経済成長を優先すべき』という経済政策を主張する議員が多い。増税路線を撤回しないよう十分に手を回している」
財務省の狙いはそれだけにはとどまらない。日銀総裁人事である。
現在の白川方明・総裁は来年4月に任期満了を迎える。自民党政権末期の2008年、時の福田政権が提示した元財務次官の武藤敏郎・副総裁らの総裁人事案を野党時代の民主党は「財務省の天下りは認めない」と次々に否決。混乱の末に白川氏が総裁に就任した経緯があるだけに、今度こそ大物OBの武藤氏を日銀総裁にするのが財務省の悲願だ。
財務省の中堅官僚は、「来年4月に野田政権が続いていようが安倍政権になろうが、国会同意人事であることを考えると自民党がNOと言えば武藤さんの目はなくなる。安倍さんにうんと言わせる信頼関係を築くのがわが省の最大のミッション」と言ってはばからない。
その安倍氏は10月11日の記者会見で、「思い切った金融緩和を行なうべきで、(白川総裁の)今までの対応では不十分だ」と白川再任の可能性を否定するなど、総裁交代をにおわせた。財務省にとっては都合のいい展開だが、「デフレ脱却を重視する安倍さんは武藤総裁就任には懐疑的」(安倍側近)という見方もある。
日銀人事の先には、東証と大証が統合されて設立される「日本取引所」のトップ人事や日本政策投資銀行の社長人事など、財務省が奪回を目指すポストの交代が控える。日銀総裁という、いわば蟻塚の頂点を選ぶ人事で財務官僚のシナリオを認めれば、役人天国の完全復活が決定的になる。
※SAPIO2012年12月号