ソフトバンクは米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収を決めた。孫正義社長の決断に対しては様々な議論が起きたが、経営コンサルタントの大前研一氏は否定的な見方を示している。その理由を氏が解説する。
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10月半ば、ソフトバンクが米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを201億ドル(約1兆6000億円)で買収すると発表した。両社を合計すると契約数は約9000万件となって国内最大手のNTTドコモ(約6000万件)を上回り、携帯電話事業の売上高では中国移動(チャイナモバイル)、米ベライゾン・ワイヤレスに次ぐ世界第3位に浮上する。
ソフトバンクの株価は買収が報じられた途端に急落したものの、すぐに急反発した。孫正義社長の決断に賛否が分かれた格好だが、私の見方は「否」である。
孫社長は、2006年の英ボーダフォン日本法人買収で最大約2兆円に膨らんだ純有利子負債を5500億円まで圧縮して借り入れ余力が高まり、円高と低金利の追い風もあるという理由で、スプリント買収に踏み切った。その勇気は賞賛するが、私には今回の買収のメリットが全く見えてこないのだ。
そもそも携帯電話会社の国境を越えたM&Aは、うまくいった例がほとんどない。スウェーデンのテリアとフィンランドのソネラが合併したテリアソネラくらいだろう。NTTも海外での企業買収はことごとく失敗し、2兆円もの特別損失を出している。
また、アメリカ国内の契約数で、3位のスプリント(約5600万件)は、1位のAT&T(約1億500万件)と2位のベライゾン(約9400万件)に大差をつけられ、2011年12月期まで5期連続で最終赤字となっている。
携帯電話事業は、より多額の設備投資をして電波を握った会社が勝つ。国土が広大なアメリカでシェアを拡大するためには、膨大な設備投資が必要となる。しかし、これからソフトバンクが上位2社を上回る設備投資をできるかといえば、極めて難しいだろう。
※週刊ポスト2012年11月23日号